第22話 冴島唯 ④


 昼休みになり、俺と柊は委員会の仕事として図書室に来ていた。


 ネット文化が発達した今、もちろん人は少ない。俺たちが一生懸命本の整理をしたにも関わらず。


 人は…少ない。


 とはいえ、人が少ないということは忙しくないということ、つまりは至って平和な昼休みだということだ。


 そして…


「あの…お花摘みに行ってきてもいいかな?」


 柊は俺に言った。


「ん…あぁ。いってらっしゃい…」


 俺は柊を片手1つで見送った。この前…何気なしに「トイレだね」と聞き返したら、『お•は•な•つ•み•です!』と強く言い返された。どうも年頃の女子というのは扱いが難しい。


 柊が抜けたとしても、俺も暇な身…本でも見ながらゆっくり過ごすことにする。


 …とりあえずは、この前読み始めた本の続きを〜…


「あっ!」


 …あ?…


 前から何かに気づいたような女子の声が聞こえてきた。ふと声のほうへと顔を上げていくと。


「相坂君、朝ぶりですね…相坂君は図書委員だったんですね?」


「うん…まぁ…そうだけど」


 俺は掴みかけた本を元に戻した。


 視線の先…そこには、綺麗な紺の長髪をした女の子…冴島さんが1冊の大きめな本を抱えて立っていた。


 …うわぁ…ちょっと苦手なんだよなぁ…


 そうは思ったが、これもお仕事。


「あー…いらっしゃい」


 とりあえず軽い挨拶をしておくことにした。


※ ※ ※


「もう委員会のお仕事は慣れましたか?」


「ん〜、まぁ…中学でも似たようなことやってたから…これぐらいなら…」


 冴島さんに話を返しながら、差し出された本の貸出リストを確認していく。


「そういえば、もうお一方いらっしゃるっぽいですが、どこかに?…」


「ん…あぁ…柊さんは今お手洗い中なんだ。少ししたら戻って〜…」


 …あ…やべ…


 冴島さんの前で何気なしに柊の名前を出してしまった。瑠花のライバル視しているという話が脳裏をよぎる。


 でも冴島さんは優しそうだし大丈夫……


「………ひいらぎ…」


 ではなかった。


 その4文字が出た途端、冴島さんのトーンが一気に下がった気がした。パッと顔を見ると、その目には正義なんて言葉が似合わない…目の光がどこか失われ、遠くを見てしまっているようなそんな状態。


 雰囲気だけで伝わる「意識してます」というライバル感…まさかここまでだとは俺自身も思っていなかったが、気をつけることにしよう。柊同様、冴島さんも相当意識しているようだ。


 俺は口が滑ってしまったことを改めて深く反省した。


 


 



 


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