第23話 冴島唯 ⑤


「それじゃあこれ…返却は1週間後だからお忘れなく…」


「はい…ありがとうございます」


 俺は表紙に『正義とは』と書かれた本を冴島さんに手渡した。


 表紙の達筆に書かれた『正義』の文字からなんとなくだが中身の予想もできてしまうような本だ。


 図書委員の俺が言うのもなんだが、よくこんな本を好き好んで手に取るなとは思う。親が警察がゆえなのか…さすがは柊にジャスティス女と言われるだけはある。


「すごい本だね…こういうのに興味があるの?」


「はい!お父さんが警察官をやってまして、それからこういう本も読んで勉強しようって…けっこうおもしろいんですよ?」


 …おもしろい?…これが…


 あまりの返しに本を二度見してしまう。


「ふ〜ん…そうなんだぁ…」


 人のおもしろいを否定してしまうのはよろしくない。とりあえず相槌を打っておくことにした。


 それにしても…


「正義ねぇ」


 ふと心の声が外に漏れた時だった。


 バンッ!!


「正義に興味がおありですか!?」


 人が変わったかのように、冴島さんは目を輝かせながら俺の前の受付机を前屈みに強く叩いた。


 そんなことより…


 バイン!!


 これは俺の脳内乳揺れ音…机を前屈みに叩いた勢いで重力に逆らえない大きな胸がバインと揺れた。


 俺もその光景に目をあてられなくなり軽く目をそらす。


「正義とは『社会的な関係において、究極的な価値を持つもの』素晴らしいと思いませんか!?究極なんですよ!?相坂さん!!ねっ!?」


 君の情熱もすごいが、俺の目の前も『究極』なのをわかってほしい。君の胸は全然重力に耐えれていない。


 朝はまだ寒かった分、セーターを着ていて綺麗にしまわれていたお胸だったのだが、昼間のあったかさで今はもっとラフなYシャツ状態…さすがの冴島さんの情熱のこもった2つのジャスティスもYシャツ一枚じゃ抑えきれていない。


「ねっ?って言われても俺も詳しく正義のことはわからないよ…俺じゃなくて、もっと別の人に…」


 ズドーン!!


 持っていた本ごと机が強く叩かれ、大きく低い音が図書室に響いた。それに伴う2つのジャスティスも今まで以上に激しく揺れた。


「相坂さん、何を言ってるんですか!?正義ですよ、正義!!この世に絶対必要なことでこれからの日本にも絶対に…」


「冴島さん…しーー…」


 ボルテージが上がっていく冴島さんを俺は指先一つで止めた。


「図書室ではお静かに…」


 俺の言葉に冷静になったのか冴島さんは図書室内をキョロキョロと見渡す。


 そして…


「え、あ、あの……すいませんでしたーー!!」


 恥ずかしさのあまり図書室を勢いよく出ていってしまった。

 

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