第24話 グラビア練習会 柊 奏


 このお話は私…柊 奏から始まります。


 私が部屋のベッドで仰向けに寝転がっている時。


「グラビア撮影会のお知らせ…題材は春のトレンド。若い女性向けの服を各メーカーさんがご用意してくれました。お越し頂ける日のご連絡をよろしくお願いします…」


 …グラビア…


 私は一人、スマホに送られてきたモデルの仕事の連絡を見た。


 季節ごと…ほぼ月に何回かこういう撮影会が都内で行われるのを事務所のマネージャーが送ってきてくれている。


 マネージャーはいつも。


「奏ちゃんはきっと雑誌の表紙を飾れるモデルになれる!一緒にがんばろ!」


 と励ましの言葉をかけてくれる。


 確かに表紙を飾れるモデルになれるというのは凄いこと…人にいろいろ見てもらえるというのは嬉しいことだし、私をスカウトしてくれた今のマネージャーさんが喜んでくれるなら尚、嬉しい。


 でも…


「モチベ……上がんないなぁ…」


 もちろん…モデルの仕事は嫌いなったわけじゃない。友達もできたし、そんな友達と競い合うのも楽しく感じる。


「相坂君…」


 この元凶はきっと、相坂君だ。元を返せば私のモデルの原動力になっているのは相坂君。モデルの仕事をしていれば、常に容姿には気を使うし、いつでも可愛い私を見せられている……気がする。


 でも最近は…


「またね!相坂君」


「あぁ。また明日〜」


 ………。


 全然ダメ。クラスも一緒、席も隣…もう申し分ないぐらいのお膳立てに私は何一つ答えられていない。


 それに相坂君だって悪いんです。私がアプローチしても、全く見てくれもしない。これじゃモデルの仕事をしてる意味が全くないじゃない。


 もはや、相坂君が全部悪いまである。


「相坂君の……ばか」


 いつも寝る時に持つ抱き枕を抱えながら相坂君に全ての負の感情をぶつけているとふと…


「ようようよう…お姫様よ〜…本当にそれはそうかぁ?お前はほんとにあいつに全てを見せたのかぁ?上から下まで全てをよぉ…」


 と角の生えた悪魔が囁いてきた。


 …上から下までって…それって…


 言わなくてもわかる、そんなことできるはずもない。


「なりません!!姫。そんな悪魔の言うことなんて聞いては…今のままでいいのです。今のままアプローチを続けていればいずれ、あの方も振り向いてくれるはずです」


 天使も悪魔に対して反撃を始める。


「わかってねぇなぁ…天使…なぁ、知ってるか?姫様、あの男、最近例の冴島とつるんでたんだぜ」


 …はっ!!…


「なっ!それは言わない約束ですよ、悪魔!?それは冴島様がたまたま図書室から出てくるところを姫様が見かけた時に、記憶を無理矢理消したもの…ぶり返してくるのは反則です」


 …そうだ…思い出した…


 私の中の悪魔の言う通りだった。確かにあのジャスティス女が図書室から本を持って出てきたのを私は見かけた。そこからの記憶は曖昧だけど、本を持ってきたということは、相坂君と会話をしたということ。


 確かに最近ちょこちょこ相坂君と冴島唯が話しているのを見かけるようになった気がする。


 …一体、あの図書室で何があったの?…


「なりませんよ…姫様。嫌なものはすっかり忘れて、新たな未来に私と一緒に羽ばたいていきま…」


「黙りなさい…天使。このままだとあのジャスティスに相坂君が取られちゃう可能性があるの。消えなさい…」


「きゃぁぁぁ〜」


 私は自身の中の天使を消滅させると、抱き枕を置きベッドから立ち上がった。


「ふ…ふふ…今にみてなさい…相坂勇太…きっと『私以外ありえない』そう言わせるようなパフォーマンスをあなたに見せてあげるわ…ふ、ふふ…あーっはははは」


 誰もいない家の中…一人、柊 奏の高笑いが響くのだった。


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る