第54話 テーマパーク ②


「ありがとうございましたー!」


 撮ってくれたカメラマンさんに感謝の一礼をする奏。


「それじゃあ、勇太君、何乗りに行こっか?」


「え?…何って……それは〜…」


 ………え?…どこから行けばいいんだ?…


 手に持つマップと目の前に広がるテーマパークの広さの違いに正直驚いた。まったくの別物だ。事前に奏と少し話はしていたが、いざ来てみると「ここから行かないと効率が悪い」「ここは待ち時間が長そう」だの…マップでは見えない予想外の出来事がポンポンと出てきた。


 こういうところで遊ぶという経験が乏しい俺には今後の予想がまったくたたない…


 とは言っても、考えているうちに周りの人たちはアトラクションの列に並びに行ったり、店に入っていったりと…もう何回も来ていますよと経験者ばりに足が動いている。


 …まずい…


 このままでは「何もできないで終わっちゃいました〜」なんてこともありえる。


 …どうする、俺!…


 こんな情けない感じで一日を終わらせるのか?隣にいる奏はずっと下をむきっぱなし。


 …まさか怒ってる?…


 俺は焦りながらにマップを見て、脳内をフル回転させた。


 すると…


「ぷっ…あはははは!」


 急に口に手を当て笑い出す奏。


「なんだ!?どうしたっ!?」


 笑う奏に聞いてみると。


「も〜、勇太君…なんて顔してるの?……ごめんね!ちょっと勇太君に意地悪してみたくなっちゃったの…勇太君、事前に話してても適当に聞いてそうだったから、つい意地悪したくなっちゃったんだ〜…大丈夫だよ!今日の流れは私の中でちゃ〜んと織り込み済み。今日一日は私がエスコートしてあげる。あ、でもこれを機に女の子の話はちゃんと聞くんだよ。わかった?」


 腰に手を当て面と向かって念を押されるように注意された。


 そして…


「……すいません」


 俺にはただただ下げる頭しかなかった。


「わかったならよ〜し!じゃあ、まずは何個かファストパスを取りに行くとこからだよ!それからこの船のアトラクション…きっとここはあまり並ばないで済むと思うから……そうすればたぶん無駄なく回れて、途中パレードなんかもあるからけっこう楽しめるんじゃないかな?」


 マップを指差しながらルート説明をしてくれる奏。奏の持つマップには事前に行く番号を示したような書き込みがあった。


 …さすがだなぁ…


 書き込みを見た俺の率直な感想だった…行き当たりばったりで考えていた俺の考えはだいぶ甘々だったようだ。


「よ〜し!それじゃあまずはファストパスを取りにしゅっぱ〜つ!!」


 グニュン!


「お、おい!奏っ」


 上げた声の共に急に腕を絡ませてきた奏…腕も腕で相当な問題だが、それ以上に胸が強く当たってくる。


「ダーメ!今日はここから離れませ〜ん!いいじゃない…今日は私のエスコートなんだし…これぐらい許してよ」


 奏の、腕を絡ませながらの上目遣いに俺は。


 ………ん〜〜〜…


 少しばかり考えたが、背に腹は変えられない。


「はぁ……わかった…今日だけだぞ…」


「やったぁ〜!!」


 更にギュッと体を寄せてくる奏。


「おい、さすがにこれじゃ歩きにくいだろ」


「そこを頑張って歩くのが、男の子だよ!勇太君」


 こうして俺と奏のテーマパークのお話が始まるのだった。


 


 

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