第55話 テーマパーク ③


「ほら、買ってきたぞ」


「あ、ありがと。勇太君!」


 俺は手に持っていたテーマパークオリジナルのクレープを奏に手渡した。


 アトラクションを何個か回り、今は束の間の休憩中…俺は奏が食べたいと言っていたオリジナルクレープを買いに行っていた。


「うーん!これ、すごくおいし〜!」


 一口食べ満面の笑みを浮かべる奏。


「そうか…」


 俺も先にクレープを食べ始めた奏の横に座った。


※ ※ ※


「ねぇ…勇太君、たのし?」


 クレープを食べながらに奏が唐突に尋ねてきた。


「ん…まぁな。あんまこういうところって家族で来なかったからなぁ…」


 雲一つない青空を見上げそれとなく俺も奏に返す。


 そう……それっぽく………


 感情をあまり表に出さないように…何気なしに奏に話を返した俺だったのだが…


 内心…


『たのし〜〜〜』


 これが俺の本音だった。こんな場所、小さい時に来た時以来から全然来ることがなかった。これに関して言えば、相坂家全体がそうではあるのだが、遊園地のようなテーマパークというものに家族全員あまり興味というものがないのが原因だ。


 理由は簡単…『全部乗れるわけじゃない』『並ぶ時間無駄じゃん』(ほぼほぼ柚子の受け売りの言葉)そんなありきたりな理由だ。そのため、どこかへ行くとなった時に、こういうテーマパークのような場所の優先順位は自ずと下へと下がってくる。その下がった結果、全然こういう場所に来なくなるという現象が起きる…というのが相坂家の現状なのだが。


 …全然乗れるじゃん…


 家族全員に教えてやりたいくらいだ。


 とはいえ、これは奏が事前にいろいろ調べてくれた賜物…次はここ次はここと指示されたおかげでスムーズにテーマパーク内をそれとなく散策できている。面と向かって言うのは、恥ずかしくなるため言えないがほんとに奏には感謝しかない。


「ん?どうかしたの?」


「あ〜、いや、なんでもない………それと…付いてるぞ…奏…クリーム…」


 俺はクレープのクリームが鼻先に付いてるぞとアピールするように奏に伝えた。そう…ほんの軽い気持ちで奏に伝えたはずだったのだが。


「えっ!?どこどこっ!?勇太君どこらへん!?恥ずいからダメっ見ないでっ!!」


 …いやいや、見るのか、見ないのかどっちなんだよ…


 予想外の反応…目の前であたふたしている奏に心の中でツッコみを入れた。


「鼻先だ、鼻先…」


「鼻先っ!?」


 バタバタと急ぎバックから鏡を取り出して確認していく奏。ものすごい急ようである。


「やだ、も〜…せっかく顔、整えてきたのに〜……」


 手持ちのティッシュで顔をふくも、ガン萎え状態の奏。そんなに気にすることなのか?俺からしたら何も変わってないようにしか見えないのだが…


「別に大丈夫だろ?奏は充分可愛い顔してるんだし、それぐらいで崩れる顔じゃないだろ?」


 …何を気にする必要がある…


 俺はしれっとフォローになってるかわからないフォローを入れ、焦る奏を横目にクレープを口に運ぶ。


 その時だった。


「勇太君、私、可愛いっっ!?こんな私でも勇太君の中の可愛いに私、まだ入れてる!?」


 いきなり眼前まで迫ってきた奏…その奏の目は泣きそうになるぐらいに真っ赤になっていて、顔も今までみたことのないくらいのクシャクシャ具合になっていた。


 …いやいやいや!!なんで、それぐらいで泣いてるんだよ!…


「あ、あ、あぁ!全然だよ、全然!それぐらい誰も気にしてねぇよ!」


 そんな奏に引きつつも必死にフォロー(2回目)を入れる。


 …女の子とは難しいものだ…


 つくづくそう思う。


 そして…


「よかったぁぁ……ありがとー、勇太君。それと…」


 パクっ!


「あっ!俺のクレープ!!」


 眼前まで迫っていた奏は近づいてきたことを良いことに、俺の食べかけのクレープを自身の口へと運び席へと戻った。


「う〜ん!こっちもおいし〜。これはほんのお礼だよ、勇太君、ありがと!」


 …お礼って………これ、間接キスじゃねぇか…


 持っていたクレープには綺麗に奏の食べた丸いあとが残っている。


「う〜ん!!やっぱり間違いないよ〜!!おいし〜」


 そんな奏を横目に。


 ……………。


 …これ、食って大丈夫なのか?…


 もぐもぐと自身のクレープを食べていく奏の隣で、ただただ食べられたクレープを見つめるしかできない相坂勇太なのでした。



 


 


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