第56話 テーマパーク ④


 その後…俺たちはいろんなアトラクションを堪能することができた。キャラクターが3Dに映し出される空間やらジェットコースター…無駄なくそつなくこなさしていく奏について行った結果。


『楽しい』


 我ながら、ものすごく今日一日を満喫してしまった。今の俺の内心はウキウキとはしゃぎ回る猿のような状態…IQ2ぐらいの思考能力だ。


 そしてこのあとは夜のパレード…奏に「夜のパレードを見ないなんてありえないよ!見てなんぼでしょ!?」と事前会議でものすごく強く念を押されていた。事前の時は「別に見なくても」な感じな俺だったが、今ならパレードを見て帰るという意味がなんとなくだがわかる気がする。


 とは言ったものの…


「まだまだ時間があるなぁ…」


 時刻は夕方の6時30分近く…パレードの開始が8時だったため、まだ始まるには1時間半という何気に長い時間を待つしかなかった。


 暇を潰すにしても、出店はパッと見るに満員状態。空き席を見つけるのも困難な状態だ。


「ね〜…予想以上に早く回れちゃったから、意外とね〜」


 隣で頷く奏。様子を見るからにさすがの奏さんもこの後の暇つぶしの予定までは組みきれないように見える。


「なぁ?…何かちょうど良く並びこみで時間が潰せるアトラクションとかないのか?」


 持っているマップを片手にとりあえず奏に聞いてみることにした。


「え〜…けっこうテレビで出てたところも回っちゃったし…まだ回ってないところもあるっちゃあるんだけど〜」


「ふ〜ん…そっかぁ…」


 奏もなんとも煮え切らない様子…俺も何かないかと再度マップを見直していく。


 …頑張って、空席でも見つけるかぁ…


 と…しぶしぶながらにテーマパークを見回していた、そんな時だった。


『あそこのお化け屋敷ちょ〜おもしろかったな!』


『え〜、怖いだけだよ〜』


 一組のカップルの話が俺の耳に入ってきた。


 …お化け屋敷…


 そういえば、歩いていてそんなものもあったような気がした。奏のプランを優先したため、スルーしていたが、今日の奏の作ったスケジュールにはお化け屋敷というプランはなかった。確か、あそこはそこまで並んでなかったんじゃ…


 奏に聞いてみることにした。


「なぁ、奏…今からお化け屋敷で時間を潰すってのはどうだ?あそこならそこまで並んでなかったし、いい時間になるかも…」


 何気なし…時間をつぶせるだろう。そんな軽い気持ちで奏に聞いたつもりだったのだが。


「えっ!?お化け屋敷!?あ〜〜、うん、勇太君がいいって、、それで良いって言うなら、、、いいんじゃないかな!?別にっ!!………怖くなんてないし!!」


 声のトーンが何段階か上がったような奏の返し…そんなにお化け屋敷に行きたかったのか。


 …それはそうだよな…今日1日、目まぐるしくアトラクションを回ってここだけ回らないなんてこと…ないよな。時間もいい時間帯…さすがは奏…お前は良い演出家になれるぞ…


「じゃあ良いってことで」


 もじもじしている奏に即答で返答すると。


「ひゃあ!!」


「……ん?…ひゃあ?」


 聞いたことのない奏の反応…


「あー、違うの!うひゃあ、楽しそうだなぁって思って……それだけっ!!」


「…ん?…」


 …おかしな奴…


「じゃあ、行くぞ…」


「は……はい…」


 俺と奏は夜の帷が下り始めたテーマパークを歩きだした。

 


 


 

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