第5話 下校 ②
…どういうことだ…
柊との距離がだんだんと詰まっていく。あまりにも歩くスピードが遅すぎやしないだろうか。
…もしかして柊…ここらへんの地理に詳しくないのか?…
そう疑ってはみるも。
…いやいやさすがにそれはない…
もう俺たちも2年になる。さすがにここらへんの地理ぐらいはなんとなくでもわかるだろう。何か探し物でもしてるわけ様子にもみえない。
…う〜ん、わからん…
歩けど、歩けど縮まっていく距離。ある一定の距離くらいは保ってはいたいが、あくまで自然体を装いたいため、あまり歩くペースは変えたくない。
そんなこんなしてるうちに、道路を渡るための歩道橋に差し掛かる頃にはもう距離は10メートルくらいにまで近づいていた。
もうこれは俺も覚悟を決めるしかないようだ。ガードは固いとは言っても愛嬌はいい柊。同じクラスどころか、隣の俺ともなれば絶対に話しかけてくるに違いないが、運が良いことに周りには高校の人間は誰一人としていない。
すなわちチャンス!
この歩道橋だ。この歩道橋の階段を登った先でしれっと追い抜く…これしかない。話しかけられても最小限の挨拶で済まし、無事に自宅というゴールを目指す。
全ては俺の平和な学校生活のために!
※ ※ ※
そして、俺はとうとう歩道橋に足を踏み入れた。距離はおおよそ5メートルくらい。先に登る柊の真後ろを俺は一段一段と登っていく。
後ろから人が来る気配はない。
…なんとかなる!…
…悪いな、柊…この勝負は俺の勝ちだ…
自分の思うがままに進む状況に、ふと脳内に勝手ながらの勝利がチラつく。そして俺は、最後の一手…柊をしれっと追い抜くために階段を登る柊を見た。
その時だった…
…なっっっ!!
初めて見たその光景に、俺は言葉がでなかった。
上を見たその先…そこにはなんと、柊の無防備になった純白のお召し物、通称『パン○』が姿を現していた。
…いやいやいやいや…
これは不可抗力だ、俺は一瞬で顔を俯かせた。確かに『階段で女子高生の後ろを歩く』となると少しばかり俺のほうも配慮が必要だったかもしれない。だが、それにしてもじゃないか。柊に限った話ではないが、うちの学校の女子のスカートは短い。最近の流行りなのかはわからないがこれではさすがに階段のような高低差のある場では「見てくれ」と言わんばかりの短さだ。
柊は気づいてないのか。トコトコとその純白のパン○を全世界に見せびらかすように頂上を目指し歩いている。
言うべきか。いや……言ったら言ったで、「見たの」問題が発生する。そもそもその肩にかけてるバックに仕事をさせろと言いたいところではあるのだが、どちらにせよこちらのほうが分が悪い。
平和に生きたいだけなのに、2年になって初日で『変態』というレッテルが貼られるのだけはごめんだ。
…ここは黙っておこう。今日見たことはなかったことに…
いや無理だ…見てしまったものはどうしようもない。脳内にはあの可愛らしいパン○がチラつく。とりあえずは脳内で留めておく。それしかない…運がいいことに階段には柊と俺だけ。他に見てる者は誰もいない。
階段にだけ集中…俺は階段を一段一段凝視するように登った。もちろん脳内にチラつく純白のお召し物はあったが、心を無心にして階段を登っていった。
そして…
「ふぅ…」
なんとか無事に誰に見られることなく歩道橋の階段を登り終えることに成功した。トラブルもあいまってか、登り終えたと共に安堵感と精神的疲れがどっと出てきた。
…追い抜こう…
もう変に疲れるのはごめんだ。
俺は、歩くスピードを一気に上げ柊のことを抜かしていく。
「あっ!相坂君。お疲れ!、また明日ね!」
テンプレのような満面の笑みで、愛嬌をばら撒くかのごとく軽く手を振り挨拶をしてくる柊。世の女の子はいつもこんなふうに階段を登っているのだろうか?柊を見てそう思ったが。
「あ…あぁ…また明日…」
早くこの場から退散せねば。これ以上一緒にいると、俺の脳内が純白パン○に埋め尽くされてしまう。せめて切り替えるだけの時間がほしい…俺はそのままの早足スピードで歩道橋を降りてそのままの足で家まで帰った。
なぜだか追い抜く時、柊の顔が赤くなってるようだったが、特段体調が悪そうにも見えなかった。きっと大丈夫だろう。
そんなこんなで俺の2年生としての初日が幕を閉じた。
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