第6話 下校 柊 奏 ③


 相坂君と初めて会ったのは中学2年の春だったかな。クラスが一緒になった時は一度もないんだけど、図書委員会で一緒になったのがはじまりだったと思う。


 最初は何も思わなかった。かっこいい…なんてほどのイケメンってほどでもないし、話かけても帰ってくるのは原稿用紙一行分の回答くらい。


『絶対この人とは将来的に関わることはない』


 はじめはそんなふうに思ってた私だったんだけど…


 中学2年の秋頃。一緒に図書室で本の管理をしていた時に。ちょっとした事件が起きたんだ。


 当時の私は、今みたいにキッパリ断れるような人間じゃなくて、嫌われないようにって感じでいろんな人と関わりを持ってたんだけど、その中に1人、しつこい男の先輩がいたのが私と相坂君との話のはじまり。


 とある日にその先輩と遊べる、遊べないでちょっとしたいざこざになっちゃって、腕を強く握られたことがあったんだけど。


「…いたい!」


 そんな時に…


「先輩…痛いって言ってますよ〜。離してあげたらいいんじゃないですか〜」


 相坂君がそんな私と先輩との間に割って入ってくれたの。そして先輩と相坂君の喧嘩…ううんこれは一方的なものにはなっちゃったんだけど。


 相坂君が先輩の殴ってきた手を片手で受け止めて。


「殴ってきたってことはそれ相応の覚悟があるってことでいいですか〜」


 私はその時、初めて「本当に王子様」っているんだなって思ったの。


 相坂君は一発で先輩をノックダウン。この後、一緒に先生に怒られたりもしたんだけど、相坂君が終わった後。


「痛いって言ってたけど、手…大丈夫?……柊さんは容姿も可愛らしいんだから、もっと断るところは断ったほうがいいよ。そうじゃないとまた変な輩に絡まれちゃうから」


 嬉しかった…人に守られるなんてこと、今までになかったから、この時の私の胸はより一層ときめいちゃった。相坂君がこのことを今でも覚えてくれてるかはわからない。外見がよければ、男子はみんな良くしてくれると思っちゃったりもした。でも相坂君は他の人とは全く違った。誰にでも平等に接してくれて、それでいて優しい。私はそこで初めて『恋』というのを自覚したんだ。


 それから私は変わることを決意した。


 どんなに強面の人でも強気に当たるようになったし、たくさん受ける告白もちゃんと断れるようになった。モデルの仕事もいつでも可愛くて綺麗な私を維持するための戒め。


『相坂君に振り向いてもらう』


 その一心で私は今の今まで生活してきた。相坂君がどこの高校を受験するかを人称えに聞いたり、何が好きかとかも調べて、こっそりバレンタインのチョコを名前なしで置いといたりもしたっけ。


 そして…

 

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