第7話 下校 柊 奏 ④


 高校2年の今日。


 私は泣きそうになるくらい嬉しかった。


 とうとう…とうとう私は相坂君と同じクラスになることができた。掲示板を見た時は周りの目もあったから平然を装ってたんだけど、心の中はどんちゃん騒ぎ。手足が震えてその場から少し動けなくなっちゃった。


 そして教室に入ると更なるサプライズ、なんと席も隣だったの。


 これは神様からのプレゼント。私に『この2年で相坂君との関係を発展させなさい』


 そう言ってくれてるに違いない。


※ ※ ※


 そして私は今、相坂君の少し前を歩いている。


 これは私の計算通り。授業が終わってすぐに私は昇降口でいつでも帰れるようにしれっとスタンバイしていた。


 相坂君が部活動に入ってないというのは折り込み済み。あとはタイミングだけ。


 そう思って私は絶好の位置を取って相坂君の前を歩いている。


 でも…


「なかなか近づいてこない…」


 あれだけの強さをした相坂君。私より歩くスピードは早そうなんだけど…


 …意外と歩くスピード…ゆっくりなのかな…


 スマホでダウンロードした鏡でチラチラ距離感を確認しながら、スピードを落としたりはしてるんだけど…まだ距離は20メートルくらい離れちゃってる。


 …しぶといわね、相坂君…


 そっちがその気ならこれならどう。


 目の前にはいつも登下校で渡っている歩道橋…ここで相坂君のハートをグッと掴んでみせる。相坂君がこの歩道橋を使っているのはもちろん折り込み済み、もっと距離を縮めれば、きっと階段の登りで、相坂君は私のことを上に見る形になる。


 …この歩道橋が私の勝負所。このために私は汗水垂らして、理想の体を作り上げてきたんだから!周りに人は誰もいない。いるのは相坂君だけ…行くよ!私の集大成!!…


 私は肩のバッグをそのままに階段を登った。もちろん狙いはラッキースケベ…階段を登ってすぐに後ろを振り向き。


「相坂君…もしかして、見ちゃった?」


 これよ!これぞ私の完璧な『相坂君完全包囲計画(仮)』これが決められれば、相坂君との距離がギュッと近づく。


 …さぁ、作戦開始よ…


※ ※ ※


 と、勢いよく始めてみたはよかったんだけど…


「恥ずかし〜…」


 もちろんなんだけど、人に下着を堂々と見せたことなんて全然ない。これは相坂君にしか絶対に見せない…そう覚悟を決めて私はここにいる。


 だけど…


 …振り向きたいのに、振り向けない…


 見られちゃってる…そう思っちゃうと、恥ずかしくなっちゃってどうしても後ろを振り向けない。


 これではダメ…これじゃ、ただの下着お披露目会になっちゃう。


 そんなことはわかってる…わかってるんだけど。


 …ダメ…


 自問自答しているうちに、私は歩道橋を登り終えてしまった。少しして相坂君も登り終えたのか、歩道橋の上で距離がだんだんと近づく。


「はぁ…」


 とりあえず、挨拶だけでもしておこう。


「あっ!相坂君。また明日ね!」


 テンプレのような挨拶。本当はもっと近づけたはずなのに、私の度胸が足りなかった。今度は絶対…


 そう決意した時だった。


「あ…あぁ…また明日…」


 …はっ!…


 相坂君が挨拶を返してくれた。それに「また明日」……


 私も何気なく使った挨拶だったが、その言葉が私の中ですごく気持ちを昂らせる言葉だった。


 また明日相坂君に会える。今まではずっと別のクラス。いる、いないぐらいの確認しかできなかったけど、今度は同じクラスの隣同士。『また明日』の言葉のベクトルが段違いでしかない。


「よーし!明日もがんばるぞー!」

 

「お、ねぇちゃん。可愛いじゃん。どうだいこれから俺とドライブなんてのは」


 サングラスをしたイカした男が近づいてきた。


「はぁ?私は今忙しいんです。とっとと目の前から消えてください」


「あっ…すいません…」


 こうして私の高校2年の初日が幕を閉じた。


 

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