第13話 看病 ⑥


 柊を抱いたまま中へと入っていくとすぐそばに大きなリビングがあった。親は仕事中なのか気配が全くない。


 とりあえず俺は早々に見つけたリビングに柊を連れていき、大きめなソファに柊を寝せることにした。


「はぁ…はぁ…」


 まずは水とタオル。一応お見舞いという意味合いもかねて近場のコンビニでお粥セットなるものを買ったが今は全然逆効果。


 リビングにいる以上水系統の大抵のものは手に入る。あとはタオル、タオル……


 そうだ!確か町のボランティアか何かに参加させられた時、タオルを参加賞でもらってバッグに。


 俺は背負ってたバッグの中を漁っていくと。


「あった!」


 そこには『参加賞』と白い紙に覆われたタオルの入ってる箱があった。


 …これで、なんとか…


 箱を開け、顔を出した純白のタオル。それを濡らしにいこうとリビング横のキッチンで水を出した。


 その時…


「…はぁ…はぁ…あつい…あつい…あつい!!」


 急に駄々をこねるような口ぶりを見せる柊。俺もその今まで聞いたことのない柊の口ぶりに、思わず柊のほうを見た。


 すると…


「おい、バカ!!」


 まさかの瞬間だった。柊は「あつい、あつい」といいながら着ていたTシャツをバッと脱ぎ捨てていた。


 焦りを感じた俺…急ぎ濡れタオルを持ち、柊の元へと走った。


 そう部屋の中なのに全力で走った。だって柊…


 次は着けていた下着。いわば純白のブラジャーにまで手を伸ばしてるんだから!


 …やばい!!…


 それしか頭に浮かばなかった。本人には意識がないのだろうか。目の前には思春期の男子高校生がいるというのに、無防備にもほどがある行動。


 ガシっ!!


 …セーフ…


 なんとか外そうとしていたブラの手を止めることができた。だが下着を見てしまったことだけは多めに見てほしい。俺にも不可抗力だった…まさか人前でTシャツをバッと脱ぎ捨ててしまうとは。


 俺は持ってきたタオルをおでこへと乗せてあげた。


「つめた〜い…きもちい〜…」


 どうやら喜んでくれているみたいだ。


 …あとはっと…


 俺もさすがに柊の親のことはわからない。ただなんとなく周りを見る限り一人暮らしでないのだけはわかる。とりあえずこの状況を打開できる人間…恵ちゃんに連絡してみることにした。


※ ※ ※


 連絡をしてみると、どうやら日中は柊の親御さんも仕事で夕方まで帰ってこないらしい。


「すぅ…すぅ…zzz」


 幸いなことになんとか柊のほうも落ち着きを取り戻してくれたみたいだ。なんだか…うん…『ポロリ』をありがとうとだけ言っておこうと思う。何回も言うがあれは不可抗力だ。今は近くにあった掛け布団のようなものを被せているため下着は隠れているが、本人が覚えてないことを祈るばかりだ。


 そして…


 ガチャ!


「奏!!大丈夫なの!?」


 焦ったような声と共に現れたのは柊をそのままスケールアップしたような綺麗な女性。グラビアアイドルのような女性が柊のもとへと走り寄ってきた。


「あの……すいません!勝手にお邪魔しちゃって!僕、柊さんのクラスメイトで手紙を届けに来たんですけど、体調悪くなっちゃったみたいで…」


「あ!いいのいいの、ごめんね〜。恵子ちゃんから電話来てクラスメイトが面倒見てるって聞いてたから急いで帰ってきたのよ〜。ほんとありがとね」


 柊のことを覗き込んでいる女性…顔からして柊ママだということはすぐにわかった。


※ ※ ※


「そうだ、そうだ…君…名前はなんていうのかな?」


 しばらくしてからの柊ママのふとした質問だった。なぜいきなり名前を聞かれた?そんな疑問もあったが、とりあえず自己紹介をすることにした。


「あ、相坂勇太って言います」


 そう答えた瞬間、柊ママの目つきが少し変わったような気がした。


「あぁ〜〜なるほどなるほど…そういうことか…そりゃ奏も調子も崩すわけだよ。おかしいと思ったんだよ!朝は割と元気だったし、夜になればもう少しよくなるかなぁって思ってたんだけど〜…」


「『…好きな人の前で可愛くありたかったんだね…』」


「あの…なにか?」


 最後のほうの言葉が聞こえなかった。


「なんでもないよ!そうだ相坂君。いきなりなんだけど私の目をジッと見てくれるかな?」


「え…なんでですか?」


「なんでもよ。ほら…ジーー…」


 …ジーー…


 恥ずかしながらも言われるがままに、俺は柊ママの目をジッと見返した。


 この年になって、人の目をまじまじと見ることがあまりないため、こちらのほうがドキドキしてしまう。それに娘が娘なら親も親だ。吸いこまれるような翠玉の瞳がすごく綺麗…それに。


 …すごくいい匂いがする…


 柊からも同じような柔軟剤のような匂いがした。すごく俺好みのいい匂いだ。


 しばらくして…


「うん!!合格!!さすがは私の娘が見つけただけのことはあるね!相坂君。これから君は私のことを『お母さん』って呼ぶことを許可します!」 


 …は?


 どういうこと?なんか知らないテストに合格して、なんでお母さん…恵ちゃんもそうだが、柊ママもなんだかおかしな匂いがする。ここは早々と立ち去ったほうがいいのかもしれない。


「すいません…用も済んだようなので僕ももう帰ります」


「あら、そうなの?もっとゆっくりしていけばいいのに…じゃあ…相坂君、帰る前にちょっとだけこっちを向いてごらんなさい」


 …まだ何かあるのか…


 俺は柊ママの声にふと後ろを振り向いていくと。


「ジャーン!!娘の下着姿!!どう!?目に焼き付けといたほうがいいんじゃない!?」


「!!!!」


 柊ママはいつのまにか娘に被せてあった掛け布団をバッと取り除いていた。もちろん俺の視界に映るのは親公認の娘のランジェリー姿…そして俺は。


「し、、失礼しました!!」


 夕方の6時…俺は早々に柊家を後にした。


 

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