第52話 チケット


「じゃあ、ゆーくん!ルカルカ先輩!またあとでね〜!」


 花梨と奏…二人は今日、お昼の図書委員の仕事があったため、昼飯のあと先に下へと下りていった。


 ともなれば…


 ここからは俺の自由時間…何者にも支配されない無敵の時間というわけだ。俺が勝手に気にしているだけかわからないが、教室で人と話していると奏からの圧を少しばかり感じるところがある。


 そんな奏も今日は委員会…今日だけは奏からのプレッシャーを感じなくて済むのだ。


 俺はここぞとばかりに食べていた空の弁当箱を片付け始め、二人と同じく早々に下へと下りる準備を始めた。まだ昼休みは30分ぐらいある。あとはゆっくり教室で寝て、有意義なお昼休みを送ろうではないか。


 …では、俺たちも…


 奏からの解放…俺のことをちょっとしたウキウキ感が付き纏い、勝手にセコセコと片付けの手が動く。


 すると…


「ねぇ…勇太?」


 隣にいる瑠花から急に声をかけられた。


「ん…なんだ?」


 俺は瑠花を横目にセコセコと弁当箱を片付けていく。瑠花には申し訳ないが、俺にとって今の昼休みはとても大事な時間だ。いくら瑠花であってもこの時間を取ることは許されはしない。


「実は勇太ってさ………柊さんと付き合ってないんでしょ?」


「ん、あぁ…そうだよ…俺は奏に勝手に言われてそのまま…………そのまま…」


 ……………ん?


 瑠花から尋ねられたことをやっつけ仕事のように流れで答えてしまったが、言われたことに対し疑問を覚え、片付けの手がピクッと止まった。


『付き合ってないんでしょ?』


 おかしい…どういうことだ。俺と奏の本当の関係は誰にも言っていない。なのになぜ?


 一年ぐらいしか付き合いはないが、何かと瑠花の洞察眼が鋭いのは知っている。覗きこんでくる顔からして俺と奏の関係に何かしら察したものがあったのか?


「どうして……それを?」


 バレている…その覚悟のもと瑠花に聞いてみることにした。


「そんなの簡単だよー!…勇太は何か裏がある時、目線をそらす癖があるからね…あ、でも安心して!ボクも二人は本当は付き合ってないのかな?ってことぐらいしかわかってないから、そこから先は全く…」


 …あるからねって…そんな可愛らしく言われても…


 銀にまとまった髪が風でなびいている瑠花。背格好がまんま女子のため、ふとドキッとさせられてしまう時がある。


 あと…


 サスペンスとかに出てくる追い詰められた犯人はこんな気持ちになるのだろうか?そんなことも同時に思ってしまった。


「まったく…………お前は相変わらず察しがいいな………そう…俺と奏は嘘で付き合ってる偽カップルだ。お前も奏がたくさん告白されているのは知ってるだろ?だから俺を偽装の彼氏にして、周りから告白されないようにしたいんだと……なかなかひどい話だろ?」


 万事休す…俺は空を見上げながらに瑠花に俺と奏の関係を伝えた。ほんとにサスペンスの犯人を演じているかのようだ。


「ふ〜ん…そうなんだ〜…………なるほどねぇ…」


 何か含みがあるような感じに頷いた瑠花。そんな姿を見ると、何か俺も気になってしまうところがある。


「何か言いたいのか?」


 一人納得している瑠花に聞いてみることにした。


「あぁ、ううん…なんでもない。なんでもないんだけど…意外と……ううん…思ってる以上に距離は近いのかなぁって…ちょっとね…」


「距離?なんの話だ?」


「ううん!気にしないで!……そうだ勇太、話は変わっちゃうんだけど…ボクね、近くの商店街でこんなの当てたんだ!」


 誤魔化すように瑠花はいきなり話を方向転換させてきた。最後のことが気になりはしたが、気にしていても仕方ない。俺は瑠花から出されたチケットのようなものにしぶしぶ目を通した。


 そこには…


「都内…〇〇遊園地ペアチケット?」


 俺は丁寧にチケットに書いてあったタイトルを一文字一文字読んでいった。


「そう、ペアチケット!最近できたテーマパークなんだけど、お試し期間ってことで、今は当選した人だけがここに入れるんだって!どう!?すごいでしょ〜?」


「ふ〜ん…」


 …確か柚子もテーマパークができるなんてこと、家で言ってたな…


「へぇ……それで………家族か誰かと行くのか?」


「う〜ん………それでも良かったんだけどね〜…これ…ペアなんだよねぇ……チラッ」


 ……………。


 …なんだかすごく嫌な予感がする…


 俺と瑠花の間にしばらくの沈黙の時間が流れた。




 

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