第58話 テーマパーク ⑥
「トイレに……行きたい?」
頭を整理した俺が薄暗い空間の中…奏にそう尋ねると、奏はコクリと頷いた。
「もしかして………動けないのか?」
「………わかんない…でもドキッとしちゃったら……」
…いや〜、わかんないって言われても〜…
言葉と共にギュッと絡ましてきている腕が強くなる…きっと驚くようなことがあったら。
……………。
うん…そういうことなのだろう。
ともなってくると今は…
緊急事態。
…やばいぞ、俺。暗がりとはいえこんなところで乙女のお小水タイムだけはまずい!それに奏はデニムのショートパンツ。夜のテーマパークはイルミネーションの光で明るくなるのは聞いている。目立つこと間違いなし。
どうにか……どうにかして奏を近場の女子トイレに送り届けなければならない。
これは……一刻を争う。
『緊急クエスト 奏を速やかに女子トイレに送り届けよ』
概要 お化け屋敷内で動くことが困難になった柊奏を近場の女子トイレに送り届けよ。少しでもビックリしてしまうだけでも危険…なるべく衝撃を少なく、お化けと遭遇させないように動くことをオススメする。
報酬 『人としての尊厳』
…さて…
これは少しばかり本気を出すしかないようだ。自分でいうのもなんだが、運動神経だけにはちょっと自身がある。迅速に奏を女子トイレへと送り届けてみせる。
とりあえずは…
「奏、ちょっとだけ俺から腕を解いてくれないか?」
俺は戦闘態勢に入るため、奏から離れる許可を得にかかる。
「え、ダメっ!絶対ダメ!!離れちゃダメ!!」
恐怖からのわがままはこの状況でも崩れることはなかった。絶対離れてあげない…奏の絡ませてくる腕がさらに強くなる。
しかし…
「奏……お前はここで漏らしたいのか?これからパレードだってあるんだろ?そんな状態で奏は、パレードを気持ちよく見れるのか?」
そう…それが現実なのだ。今の奏にわがままを言ってるだけの選択肢はない。
その言葉に奏は。
「それは……その…………」
黙ってしまった。
「だったらちょっとだけ俺の言うことをほしい。大丈夫、離れることだけは絶対しない。約束する。だから一旦、この腕を解いてくれないか?」
強く念を押すようにそう言うと、奏はしぶしぶながらも力強く絡ませていた腕をゆっくりと解いてくれ、俺から距離を取ってくれた。
「ありがとう…奏………それじゃあさっそく、失礼して…」
俺は離れていた奏の少し下に回りこむと背中と後ろ膝に手をかけ、一気に自身のお腹前まで持ち上げた。
「えぇっ!?勇太君!?これって、、、ちょっと!?」
「ごめん、これしか手がないんだ…気に食わなかったらあとで殴ってもらっても構わない。だから……ごめん…今だけは我慢してくれ」
「な、殴るって……そんなことしないよ……(お姫様抱っこなんて始めてだし…嬉しいし…)」
「何か言ったか?」
「えっ!?ううん!何も」
なぜか焦ってる様子の奏だが、構っている時間はない。
「じゃあ、早速だけど奏…今から俺がいいって言うまで目と耳を閉じててくれるかな…絶対に目を開けない、何も聞こえない…それぐらいに」
「え…うん…わかった……………閉じたよ」
俺の言うことに奏はコクリと頷くと俺の言う通り、目と耳を閉じてくれた。
…ありがとう…奏…
俺は心で奏に感謝を述べた。
そして……
シュタタタタタタ!!
俺はそこから懸命に走った。それはもう風の如く…静かに、衝撃も最小限に…出てくるお化けなんてのはお構いなし。驚かせる前に俺はお化けの前を通り過ぎた。
前にいたお客さんにも迷惑をかけないよう追い抜いたことを気づかせない…それだけのスピードで俺はお化け屋敷、そしてテーマパーク内を颯爽と駆け抜けていった。
目指すはただ一つ…そう…女子トイレだ。
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