第59話 テーマパーク ⑦


「あの……私が出てくるまでそこで待っててね…絶対!絶対だよっ」


「ぜー、はー、ぜー………待ってて……やるから……はぁ、はぁ…早く…行ってこい」


 息を切らせながらどうにかこうにか奏を近場のトイレへと送ることができた。


 しかし…


「きっちぃーー…」


 ここまでの全力を使わされたのはほんとに久しぶりだ。親父とのトレーニングでもここまではなかなか…


 自身の無駄に高い運動神経に感謝ではある。


※ ※ ※


 夜の帷が降り、気づけば周りはテーマパーク内に綺麗なイルミネーションが展開されていた。パンフレットで見た時は「こんな感じか」と見ていたところがあったが、いざ目の当たりにしてみると数多くの色が飛び交っており、綺麗でなんとも幻想的な光景である。


「お待たせ…勇太君……あの………ごめんなさい!!凄い私迷惑かけちゃった!せっかく勇太君が誘ってくれて…私、嬉しくて…怖かったけど……それで…」


 しばらく待っていると、奏がトイレから出てきた。悪いと思ったのか出てくるなり全力で謝ってきた奏。


 とはいえ…


「いや、気にしてないよ……全然…」


 …元はと言えば俺のせいだろうし…


 お化け屋敷に行こうと言ったのはそもそもの話、俺だ。謝るほうは俺のほうかもしれない。奏はお化けが嫌い…このことはしっかり反省することにした。


「ほら、これからパレードが始まるんだろ?お化け屋敷言ってる間にそれっぽい時間にもなったし、場所でも取りに行くか?」


 頭を下げている奏に言うと奏は。


「う、うん…」


 頭を上げた奏の表情からはほんとに申し訳なさそうな顔をしていて、普段はしっかり目を合わせてくるところ…まったく目を合わせようとしてこない。


 …ふむ…


 さすがに奏のこの状態では「パレード見にいこうぜ」とは積極的には言えない。ただ事前の時点でパレードこそが醍醐味みたいなところがあったためきっと奏的にはパレードを見たいのは間違いないはずだ。


 ……………。


 …はぁ…しょうがない…


「奏…また漏らしちゃうのか?もう、あんな大衆の前では勘弁してくれよ?」


 俺はわざと目の前にいる奏を逆撫でするような口調で言った。キレられてもいい…今のこの奏の落ち具合さえどうにかなれば。


 すると…


「はぁ!?も、も、も、漏らさないわよ!!そもそも漏らしてなんかないし!!もー勇太君のバカ!!アホ!!ど変態!!もう、知らない!!」


 予想以上の反応だった。奏は背けてた目をこちらに向け、一言、一言、グイグイと迫ってきては、また目を背けてしまった。


 でも…


 …やっと戻ってくれた…


 そんな気がした…なんだかいつも強気な奏を見てきた俺にとって弱気になっている奏というものは、なんとも扱いにくく受け入れ難いところがあった。これでこそ奏…強く物言いができる女こそ柊奏なのだ。


「ほら…」


「なによ…」


「パレード……手……繋いどかないとはぐれるかもしれないだろ?だから…」


 俺はプイッと顔を背け、ひねくれている奏に右手をサッと差し出した。


「…え?…手…繋いでいいの?」


「早くしろ、人が多くなってきた。いい場所で見られなくなるぞ」


 …………。


「………ふふ…」


「何がおかしい?」


「ううん…なんでもないよ!しょーがないなー!勇太君がどうしてもって言うなら繋いだげる!」


「バ、バカ!近いって!」


「ふふっ!!慣れてくださ〜い」


 こうして、俺と奏のテーマパークデートは幕を閉じるのだった。



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