ガードの固い柊さんが俺にだけポロリしてくれる件

Yuuki

第1話 はじまり


 俺の名前は『相坂 勇太』


 可もなく不可もなく、特に趣味という趣味も特にないただただ平凡に暮らす一般的な高校生である。成績は凡人クラス。中、高と毎年もらう通信簿は常に中間レベルの3。少しばかり運動神経が良く生まれてきたため、体育だけはわりといいが、男の子たるもの体育ぐらいは1ランクぐらい高いぐらいがちょうどいいだろう…俺はそう思っている。


 そんな普通の塊のような俺の物語は桜の舞う通学路から幕を開けることになる。


「あぁ…懐かしいなぁ」


 入学式の翌日…桜の立ち並ぶ通学路でワイワイガヤガヤと盛り上がる新入生たちを見てふと思った。


 一年前の自分もこうだったのか…去年の俺もこんな感じに先輩たちに見られていたのかと思うと、俺も年をとったんだなと年寄りじみたことを思ってしまう。きっとこの中から、これからの未来の日本を背負う子たちが世に出ていくのだろう…そんな未来の種子たちの横を俺は黙って過ぎ去っていく。


 挨拶なんてものはない。それはそう…俺は部活に入ってあるわけでもなく、誰かと深く関わってきたわけでもない、すなわち知り合いがいないのだ…それは先輩であれ、俺への挨拶なんてものはないのは当然と言えば当然…だが、少々…ほんの少しだけではあるが、挨拶をもらって先輩づらをしてみたい…そんなことを思うのはもしかしたら若さゆえなのかもしれない。


「勇太〜!」


 歩いている後方から俺のことを呼ぶ声が聞こえてきた。よく聞き慣れた声…近づく声のほうへと体を向けていくとそこには俺の数少ない友人。


「おはよ、勇太」


『小林 瑠花』がそこにはいた。


 それにしても…


 …勇太〜……って…


 なんとも、まぁ…2年になっても相変わらず恥ずかしいやつだ。女子校生が名前呼びで近づいてくる光景はよくあるラブコメのような状況に似ていて、わかりはするのだが、今どき名前を呼びながら手を振って近づいてくる男子高校生なんていないだろう。


「あぁ…おはよう、瑠花」


 軽い挨拶の先にいるのはバックを背に背負う銀髪ポニーテールの瑠花。


 そう…これこそが小林瑠花の最大の武器なのだ。


 このことは、瑠花自身は全然気にしていない。…というより気づいていないと言ったほうが正しいのだろうか。


 瑠花の武器、それは。


 『容姿が限りなく女の子と変わらない』


 これである。


 つまりは『男の娘』という部類の人間なのだ。今の瑠花は学校指定のブレザーにズボンを履いていて、それっぽい男っぽささえ出してはいるのだが、首から上は女の子。脱いだら脱いだで胸のない女の子。そんな容姿のため、女の子っぽい行動をしても、周りからは何か言われることもないし、時折り女子からいじられているところを見ることもあった。1年の時に初めて一緒に更衣室で着替えた時は、男ながらドキッとさせられたものだ。


『瑠花』という名前をつけた親は天才なんじゃないかと思っている。


「ねぇ、勇太?今日はとうとうクラス変えだよ!また一緒になれるかな?」


 ワクワクした様子で瑠花は俺に話してくる。


 …こいつは俺の彼女か何かか?…


 瑠花の言葉に俺は。


「さぁな〜…別にクラスが別でもやることは変わらねぇよ。平和が1番…何事もなく1日を終えてしっかり365日を過ごせればそれでいい…」


「ふ〜ん…相変わらずの平和主義だね」


「だろ…」


 この時はまだ俺も知るはずもなかった。この高校2年の始まりから平和なんてそっちのけな多忙な学校生活が送らされていくということを。




 

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