第3話 視線


「なんでこうなった…」


「なんでって言われてもねぇ…」


 俺たちは、朝のホームルームから始まったいろんな決め事を程度終え、昼休みを迎えていた。


 昼のホームポジションである屋上へと顔をだした俺と瑠花はお互い作ってきた弁当をだし、昼食を摂っている最中。


「よく考えてもみろ。瑠花…俺や周囲の奴もそうだが、次の席替えがくるまでの間、いろんな奴からの視線をくぐって生活するしかないんだぞ…お前なら耐えられるか?」


「え〜?…柊さんって興味ないものには全然興味を示さなそうだから、気にしなければ大丈夫そうだと思うけどなぁ…」


 唐揚げをもぐもぐしながら瑠花は言った。


「お前は人ごとだな…瑠花。確かにあいつのガードが○Tフィールドぐらい硬いことくらいは風の噂で知ってる。きっと俺のことも気に止めることは万が一にもないだろう。だがな…俺はこれから何かあるたびに周囲の人間からゲ○ドウさんばりの視線を受けて学校生活を送ることになるんだぞ。そんな視線をお前は無視できるのかと聞いているんだ」


「そ、それは〜…」


 瑠花は視線を晒した。柊の近場ということ。つまりはそういうことなのだ。俺はこれから何かあるごとに柊に声をかけられていくたびに厳しい視線を浴びていく。俺はただただ言っているわけではない。そういう人間を中学から何人か見てきたから大いに警戒しているのだ。


「はぁ…何はともあれとにかく席替えまでのこの数ヶ月間を必死に生き抜くしかない。瑠花…俺は、これから柊と絶対に視線を交わさない。俺は必ず平和な日常を掴み取ってみせるんだ」


 弁当箱片手に屋上で断固たる決意をした俺だったのだが。


※ ※ ※


「あの…消しゴム落ちたよ…」


 初手からやってしまった。柊でも全然届く距離…つい人としての良心が出てしまった。俺は柊の落とした消しゴムを無意識に拾ってしまった。


 もう決意は台無しである。


 …しまった…


 そんな気持ちも追いつかない。周りからはとてつもない視線が襲ってきているのは見なくてもわかる。もう右も左も前も後ろも八方塞がりだ。


 …わかってくれ、これは別に好意を求めてやったわけじゃない。ただ拾ってあげただけ…それだけなんだ…


 なんだか「俺は犯人じゃない!」と言い張るようなドラマのようなシーン…そんな気持ちを知る由もない柊は。


「ありがと!」


 これは営業スマイルなのかなんなのかはわからない。柊は俺に可愛らしくウインクを投げかけてきた。もう営業だろうがなんだろうがどっちでもいい。『ウインクをした』その事実だけは変わらない。


 …やめてくれーーー!!!!…


 そんな渾身の心の叫びとは裏腹に。


「おう…」


 視線にビビった俺はしれっと拾った消しゴムを柊の机へと置いた。


 


 


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