第30話 修羅場

 そんな威圧感を放った魔王さんに、僕は大きな声で言う。


「ま、待ってください!もしかして、シャルと戦うつもりなんですか?」

「先に攻撃したのは私じゃないわ、それに、今も私の方に向けて魔法を放とうとして来てるんだから仕方のないことよ」

「シャルのことは僕が説得するので、シャルのことは傷付けないでください!」

「……そんなにあの女が大事なら、余計────」

「お願いします!」

「……」


 ここは言葉じゃなくて、シャルのことを守るために魔王さんに攻撃してでもそうお願いしないといけない場面────なのはわかっているけど、魔王さんが僕のことを好きと言ってくれていて、僕が本当に魔王さんと会ってたことのある記憶を封印されているとわかっている以上、魔王さんのことを攻撃なんてする気にもなれない。

 だからこそ、僕が言葉だけで強くそうお願いすると、魔王さんは少し困ったような表情で言った。


「ウェ、ウェンくんにそんなに強くお願いされたら、断れないわ……」

「魔王さん……!ありがとうございます!」


 僕がそう言うと、魔王さんは頬を赤く染めた。

 僕たちがそんなやり取りをしていると、シャルが僕と魔王さんの方に近づいてきて魔法を構えると言った。


「ウェンから離れてって言ってるでしょ!!」


 そして、僕のことを抱きしめている魔王さんのことだけを的確に狙う────けど、シャルは僕に当たらないようにしてくれているのか、魔法の範囲をとても限定しているため、魔王さんはそれを回避する……僕は、その隙に近づいてきたシャルに言う。


「シャル!魔王さんと戦う必要はもう無いから、一度魔王さんへの攻撃をやめてくれないかな?」


 僕がそう言うも、シャルは怒った様子で言う。


「何言ってるのウェン!その魔王はウェンのことを十年間も魔物に狙わせ続けたやつなんだよ!?それに、どうして魔王に抱きしめられてるのに平然としてるの!?」


 た、確かに……色々と衝撃的なことがあって感覚が麻痺していたけど、やっぱり初対面────では無いのかもしれないけど、少なくとも十年間は会っていない女性に抱きしめられるというのはやっぱり不自然だ。

 シャルはそのことに対しても強く怒っているみたいだから、シャルに落ち着いてもらうためにも魔王さんには僕のことを抱きしめるのを一度やめてもらわないといけない。

 そう思った僕は、僕のことを抱きしめている魔王さんに言う。


「あの、魔王さん……シャルに落ち着いてもらうためにも、僕のことを抱きしめるのをやめてもらえませんか?」


 シャルのことを落ち着かせるためだから、魔王さんも頷いてくれるはず────


「それはダメ、ようやく会えたんだから、最低でもあと一時間ぐらいはこのまま抱きしめさせてもらわないと気が済まないわ」

「い、一時間!?」


 そう言うと、魔王さんはさらに僕のことを抱きしめる力を強めた。

 そして────それを見たシャルは、目元を暗くして魔法を魔王さんに放ち続けたけど、魔王さんは僕のことを抱きしめたままそれを回避する。

 ……普段のシャルならここまで魔法を外すなんてことにはならないと思うけど、魔王さんが僕のこと抱きしめていて僕には当たらないようにしてくれているから、魔王さんだけに当てながら魔王さんに回避されない魔法を放つのは難しいみたいだ。

 怒った様子のシャルは、魔法を放つのをやめると────僕と魔王さんの方にさらに距離を縮めてきて、僕の体を後ろから抱きしめると僕のことを引っ張るようにしながら言った。


「ウェンは私のウェンだから、魔王は大人しくウェンから離れて」

「嫌よ、ウェンくんは私のウェンくんだもの」


 二人の雰囲気は、なんだかとてもピリピリしていた。

 攻撃したりされたりしていた状況だったからピリピリするのは当然だと思うけど……というか、ピリピリなんていう言葉じゃこの状況を表現できない。

 一言で表すとするなら────修羅場……みたいだった。

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