第39話 大好き

 ────シャルが、僕のことを好き。

 今のシャルを見れば、それが幼馴染として好きとか、そういうことじゃなくて一人の異性として僕のことを好きだと言ってくれていることが伝わってくる。

 これが……シャルの、ずっと抱いていたけど、僕に伝えられなかったこと。

 ……きっと、それをずっと僕に伝えられなかったのは、僕のせいだ。

 僕は、今こうしてシャルに好きと言われるまで、全然そんなことを考えてなかった……もちろん、一般的に使われる幼馴染という言葉以上に僕はシャルのことを大切に思っているけど、シャルのことをそういう相手だと考えたことはなかった。

 でも、シャルのことをそういう相手としてみたら────


「……」


 こんなに可愛くて、優しくて、僕のことを大切に思ってくれている存在が居るのに、どうして僕は今までこの感情を抱けなかったんだろう……ううん、もしかしたら、抱いていたけど、それが恋愛のものだとは気づけなかっただけなのかもしれない。

 僕は、そんなシャルの言葉に返事をするために口を開いて言う。


「シャル……今までシャルの気持ちに気付いてあげられなくごめんね、僕もようやく今、自分の気持ちに気付くことができたよ」


 そして────僕は、シャルのことを優しく抱きしめて続けて言った。


「僕も……僕の力になってくれて、僕の隣で笑っていてくれて、ずっと僕の隣に居てくれるシャルのことが、大好きだよ」

「っ……!ウェン!」


 僕がそう伝えると、シャルは嬉しそうな表情で僕のことを抱きしめ返してきて言った。


「良かった……私、こんなこと言ったら、もしかしたらウェンが嫌がるかもって、ずっと言えなくて……でも、ウェンがそう言ってくれて、本当に……本当に嬉しい……!」

「シャル……」


 本当に……どうして、僕は今までシャルの感情に、そしてシャルへの恋愛感情を抱く、もしくはそれに気づくことができなかったんだろう。

 それに気づいて、シャルと触れ合うだけで、こんなにも幸せな気持ちになれたんだ……僕がそう思いながらシャルと抱きしめ合っていると────突然、肌寒さを感じた。

 ……お風呂なのに、肌寒さ?

 ……どう考えても自然でないことが起きていることに僕が困惑していると、近くからとても強力な魔力を感じ、僕────そして、シャルもその魔力に気が付いたようで二人で同時に同じ方向を見ると、そこには目元を暗く、それで目つきを鋭くして冷気を放っている魔王さんが居た。


「ま、魔王さん……?」

「ウェンくん、何をしているの?」


 そ、そうだ……僕は、先に魔王さんから大好きだと伝えられて、まだそれにちゃんとしたお返事もできていないのに……


「えっと……す、すみま────」


 僕が、ひとまず何を言うにしても謝罪から入るべきだと判断し、一度シャルのことを抱きしめるのをやめて謝罪の言葉を口にしよう魔王さんに向けて口を開いた────その時。

 シャルは、僕のことをさらに力強く抱きしめてきて言った。


「何って、見ての通りウェンが私の気持ちを受け入れてくれただけじゃん!」


 そのシャルの言葉を聞いた魔王さんは、シャルに氷魔法を放った────僕とシャルは、一度体を離してそれを回避する。

 ────その行動を予測していたのか、魔王さんは僕が回避した先に立っていた。


「ウェンくん、二人で話すわよ」

「え……?」


 そう言うと、魔王さんはすぐに転移魔法を発動した。


「ウェン!」


 シャルは僕の方に手を伸ばしてくれていて、僕もそれに気づきシャルの方に手を伸ばそうとしたけど────それは間に合わず、僕は魔王さんと一緒に転移した。

 そして、転移した先で、その空間がどこなのかを確かめるよりも早く────魔王さんは、僕のことを正面から抱きしめてきた。

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