第40話 現実
◇シャルside◇
「やっと……!やっとウェンに気持ちを伝えられて、ウェンも私の気持ちを受け入れてくれたのに……!魔王……絶対許さない!」
私は、さっきの二の舞にならないようにすぐにウェンと魔王の転移先の魔力を探った。
「方角も場所もわかった……転移魔法はあんまり使えないけど、一つの建物の中ぐらいだったら!」
そう意気込んで、私はウェンと魔王の魔力を感じる場所に転移しようとした────けど。
「て、転移できない……」
魔王城だから、侵入者とかに備えて魔王軍の魔人以外は転移できないようにしてあるのかな?
「あ〜!もう!でも、場所はわかってるんだし、すぐにでも向かえば!」
私はお風呂場にそんな声を響かせると、すぐにお風呂場から出てウェンと魔王のところに向かうことにした。
◇ウェンside◇
「ま、魔王さん……?」
魔王さんに突然抱きしめられた僕が困惑しながらそう言うと、魔王さんは僕のことを抱きしめながら言った。
「ウェンくん……ウェンくんは、ずっと私の傍に居てくれたら良いのよ……私は、それだけで……」
魔王さんは、悲しそうな声音で言った。
……僕に魔王さんとの過去の記憶があれば、僕は今どうしていたんだろうか。
魔王さんに何か気の利いた言葉を掛けてあげられて、魔王さんのことを笑顔にできたのかな。
でも……僕は、魔王さんにこうして抱きしめられても、魔王さんと出会ったことのある過去の記憶を思い出すことができない。
「本当に、すみません……魔王さんがそんなにも辛そうなのに、記憶の一部も思い出すことができなくて」
僕がそう謝罪すると、魔王さんは僕のことを抱きしめたまま僕と目を合わせて言った。
「さっきも言ったけれど、それはウェンくんが謝ることじゃ無いわ……だけど────私の告白に返事もせず、あの女の気持ちに応えて抱きしめあったのはいただけないわね」
「ほ、本当にすみません!」
冷気を放ちながらそう言う魔王さんに、僕が心の底から謝罪すると、魔王さんは冷気を放つのをやめると同時に僕のことを抱きしめるのもやめて言った。
「それも、記憶を思い出せないなら仕方のないことだわ」
そう言うと、魔王さんはその場に膝を崩した。
「ま、魔王さん!?」
僕が魔王さんの方に駆け寄ろうとするのを、片手で止め、もう片方の手で顔半分を隠しながら言った。
「十年間、ずっと……想像していたのよ、もしかしたら、何かの奇跡が起きて、ウェンくんと会うことさえできればウェンくんが私のことを思い出してくれるんじゃ無いかってね……でも、現実はそう甘く無いのね」
「魔王さん……」
僕は、魔王さんのことを助けたい……きっと、世界中どこを探しても、今の魔王さんの心から痛みと悲しみを取り除けるのは僕しか居ない。
どんな薬や魔法でも、魔王さんの今の心の痛みを無くすことはできない。
でも、その僕にも……今は、魔王さんのことを助ける手段が無い。
「今の私は無様ね、ウェンくん……見ないでいてくれるかしら」
「無様だなんて、そんな……魔王さんは────っ」
そう言おうとした瞬間、僕の頭に頭痛が走った。
……今のやり取り、昔、どこかで似たような────
「ウェンくん!?」
そして、一つの光景が脳裏に過ぎる。
「────そこを離れなさい、人間、今の無様な私を見るんじゃないわ」
「ぶ、無様だなんて……僕は、とても綺麗だと思いますよ」
今の、光景は……もしかして────僕は、それを深く思い出そうとした瞬間……
「ウェンくん!ウェンくん!?」
視界が暗転し、魔王さんの僕を呼ぶ声だけを頭に響かせたまま意識を失った。
そして────どこか見覚えのある光景が目の前に広がり始めた。
これは……そうだ、この景色は────僕が子供の時の記憶。
僕が魔王さん────ネルミアーラさんと出会った時の記憶だ。
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