第38話 お風呂

 お風呂場にやって来た僕たちは、まず体を洗うことになった。

 魔王城のお風呂場ということもあって、体を洗う場所だけでもとても広く、水魔法でお湯が出る場所も数多くある。


「僕はあっちの方で体を洗うので、二人はその反対の────」

「ウェン!私があっちで背中流してあげる!」

「ウェンくん、私があっちで背中を流してあげるわ」


 そう言って、今度はシャルが僕の左手、そして魔王さんが僕の右手を握ってそれぞれの方向に連れて行こうとすると、二人はそんな互いのことを見て口を開いて言う。


「私がウェンの背中流してあげるから、魔王は一人で体洗っててよ」

「いえ、あなたも長旅の疲れが溜まっているでしょうから、ウェンくんのことは私に任せてくれて良いのよ?」

「旅の疲れなんて溜まってないから!ウェンの背中は私が流すの!」

「私の方がウェンくんの背中を流してあげたいと思っているから、私が流してあげるのが筋というものよ」

「はぁ!?私の方が────」


 相変わらずそんな言い合いを始めた二人は、最終的に二人で僕についてきて二人で僕の背中を流してくれるということになった。

 すると、二人は小さな声で何かを呟いていた。


「私、今、ウェンくんの背中に触れているのね……愛らしいわ、ウェンくん……」

「ウェンの背中、当たり前だけど、子供の頃より大きくなってる……ウェン……」


 なんだか、二人の僕の背中を流してくれる手つきが、先ほどまで言い合いをしていた人とは思えないほどに優しいものに感じたけど、優しく背中を流してくれる分には何も文句は無い。

 その後、僕は少しの間二人に背中を流してもらい、二人が僕の背中を流し終えてくれると────


「ウェンくん、私がウェンくんの頭を洗ってあげるわ」

「ううんウェン、私がウェンの頭洗ってあげる」


 と、また言い合いをして────二人で僕の頭を洗い終えてくれると……


「ウェ、ウェン、私がウェンの体────」

「ウェンくん、私がウェンくんの体を────」


 二人が突拍子も無いことを言い出そうとして来たので、僕は少し恥ずかしさを覚えながら大きな声で言った。


「体は自分で洗いますから、二人は離れてください!!」


 僕がそう言うと、二人は素直に僕から離れてくれた。


「あなたのせいで、ウェンくんのことを怒らせてしまったじゃない」

「私じゃなくて、魔王のせいだから!」

「……けれど、さっきのウェンくんの恥ずかしがっている表情は少し良かったわ」

「それは、まぁ……確かに、可愛かったけど────」


 その後、僕たちはそれぞれ体を洗うと、三人で一緒にお風呂に浸かる。

 この短い間でもたくさん二人は言い合いをしていたけど、結局どうしてそんなにも言い合いを行っているのかはわからなかったため────僕は、直接二人に聞いてみることにした。


「あの……シャルと魔王さんは、どうしてそんなに言い合いをしているんですか?」


 僕がそう聞くと、シャルと魔王さんは少しの間沈黙した……すると、シャルが真剣な表情で言った。


「ねぇ、ウェン……魔王を倒したら伝えるって言ってたことだけど、それを今伝えても良い?」

「え……?」


 確か、シャルが今まで僕に抱いていたいたけど、僕に伝えられなかったこと……それを、今?


「……」


 突然のことに少し困惑してしまったけど、シャルは真っ直ぐな瞳で僕のことを見て来ている。

 僕は、そんなシャルのことを見て、すぐに困惑を無くして真剣にシャルの言葉を聞くことにした。


「うん、いいよ」


 僕がそう返事をすると、シャルは口を開いて言った。


「ウェン……私、私ね……」


 頬を赤く染めながら少し言葉を詰まらせちゃシャルだったけど────次の瞬間、ハッキリとした声音で言った。


「私!ずっと、ずっと、ウェンのことが大好きなの!!」

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