第31話 目的
「────私のウェンくんって何!?どう考えても私の方がウェンと一緒に居る時間長いんだけど!」
「一緒に居る時間の長さと愛の大きさを結びつけようとするなんて、短絡的な思考ね」
「あ、愛……!?わ、私は別に、愛なんて……」
シャルが魔王さんの言葉にどこか照れた様子になると、魔王さんは言った。
「はぁ、そんな感情表現すら素直に行えないのに、よくウェンくんを自分のものだなんて言えたものね」
感情表現……?どういうことだろう。
……この場が今修羅場のようなことになっているのは、僕が理解できていない理由もあるのかもしれないけどそれがどんなものなのかはわからない。
僕がそう思っていると、シャルが言った。
「もう!うるさい!とにかく、ウェンは私のなの!!」
大きな声でそう言うと、シャルは僕のことを後ろから抱きしめながらも、魔王さんの腕を僕から一瞬引き離すと、それと同時に僕のことを魔王さんから引き離した。
そして、シャルは大きな声で言う。
「ウェンが居なくなったから、これで遠慮なく戦える!!」
そう言って魔王さんに対して魔法を構えたシャルに対して、僕はそんなシャルと魔王さんの間に割って入るようにしながらシャルに向けて言う。
「待ってシャル!少しだけ話を聞いてくれないかな?本当に、もう魔王さんと戦う必要は無いんだ」
「さっきもそんなこと言ってたけど、騙されたらダメだよウェン!」
「騙されてるんじゃないよ、僕自身のことからも、魔王さんと戦う必要が無いことを証明できるんだ……だから一度、僕の話を聞いて欲しい」
この状況ではただお願いすることしかできないけど、シャルはそんな僕のことを見て一度魔法を構えるのをやめて言った。
「ウェ、ウェンにそんな風にお願いされちゃったら、断れないじゃん……」
「シャル……!ありがとう!」
一度落ち着いてくれたシャルに、僕は僕と魔王さんが十年前に会っているらしいこと、そして僕はその記憶を封印されているということを説明した。
すると、シャルは落ち着いた様子で言った。
「そうだったんだ……でも、それでどうして魔王がウェンのことを十年間も魔物に狙わせ続けるなんてことになるの?十年前からウェンのことが好きだったって言うなら、ウェンのことを魔物に狙わせるなんてことしないと思うけど」
それは確かに僕も気になっていることだ。
魔王さんが僕のことを好きだと言ってくれたことが衝撃的で、最初に聞いたどうして魔王さんが僕のことを魔物に狙わせ続けているのかという問いの直接的な答えを聞き損ねていたけど、そろそろ聞いておきたい。
シャルの言葉を聞いた魔王さんは、間を空けずに答えた。
「私が魔物にウェンくんのことを狙わせ続けた目的は、その魔物たちにウェンくんのことを攫わせてウェンくんのことを私の元に連れてくるためよ」
「僕のことを、攫わせるため……」
今まで、魔物が僕のことを襲おうとしていると考えていたけど……言われてみれば、洞窟の時もスパイダーの糸で体を巻きつけられて睡眠状態にされただけで、何か外傷を追うような事は無かった。
それに、本当に僕に危害を加えたくて襲おうとしていたんだとしたら、それこそ子供の頃にでもオークの大群を僕のところに差し向ければ、その時の僕にはそれに対する対処なんてできなかったはずだ……シャルもそのことを理解したのか、魔王さんに言う。
「じゃあ、最初からウェンに危害を加えるつもりは無かったってこと?」
「当たり前よ、ウェンくんに危害なんて加えるなんてことをするはずがないわ……ただ、一つだけ言わせてもらってもいいかしら」
「何?」
「────ウェンくんは私のものよ」
シャルの問いにそう答えた魔王さんが、その直後に一瞬だけローズさんの方に視線を送ると────その瞬間に、魔王さんが僕のことを魔王さんの方に移動させるために軽い風魔法を放ち、ローズさんがまたも僕と魔王さん、そしてシャルとローズさんのことを遮るための石を土魔法で立てた。
シャルは魔王さんがローズさんに視線を向けた瞬間に僕の方に駆け寄ってきていたけど、魔王さんとローズさんによって僕とシャルは分断されてしまった。
「シャル────」
僕がシャルの方に呼びかけようとしたところで、目の前の魔王さんは嬉しそうな表情で僕のことを抱きしめてきて言った。
「さぁ、ウェンくん……今から二人で楽しい時間を過ごしましょう?」
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