第32話 転移
◇シャルside◇
「ちょっと!また私とウェンのことを分断して、今度はウェンに何をするつもり!?」
私は、目の前の女によってまたもウェンと分断されたことに対して苛立ちを抱きながらそう言うと、この女は言った。
「すみません、魔王様がウェン様と二人きりになりたいと合図を出されたので……私としては、特にシャルさんと戦おうというつもりはありません」
「だったらどうするつもり?」
「どうも致しません、なのでよろしければ、シャルさんも魔王様がウェン様とのお二人でのお時間を思うがままにお過ごしになられるまで、ここで待っていてはいただけないでしょうか?」
「そんなこと!できるわけないでしょ!!」
怒りのままに大きな声でそう言うと、私はこの女────では無く、隣の土魔法で建てられた石に向けて風魔法を放った。
この女も憎たらしいけど、まずはウェンと魔王のことを二人にしないことを優先にしないと……そう思って放った風魔法は、その石に大きな穴を開けた。
私は、すぐにその穴に向かう。
「ウェン!」
ウェンの名前を呼んでその穴の中に入った────けど、そこにはウェンの姿も魔王の姿も無かった。
「ウェンと魔王は、どこに……」
私が周りを見渡しながらそう呟くと、私の後ろをついてきていた女が言った。
「お二人は転移魔法でこの魔王城のどこかに転移なされたようですね」
普段だったらウェンの魔力反応がどこかに転移したなら、いくら分断されてたとしてもすぐに気づくはずなのに、感情的になってて気づけなかった……
「……魔王は、ウェンのことをどこに連れて行ったの?」
私が冷静さを取り戻してそう聞くも、この女は首を横に振って言った。
「わかりません」
……魔王はウェンのことが好きって言ってたし、もしかしたらウェンのことを自分のものにするために手段を選ばないかもしれない。
早く……早くウェンのことを探さないと!
私は、こんな女の相手をしている場合じゃないと思い至って、すぐにこの空間を後にしてウェンと魔王のことを探すことにした。
◇ローズside◇
走って魔王の間を後にするシャルのことを見ながら、ローズは呟く。
「魔王城は広いですから、時間稼ぎとしてはこれでも十分でしょう……今は誰も私の周りに居ませんし────服装を元の服にしても構いませんよね」
そう言うと、ローズは魔法によって一瞬で露出の無い服から、普段着ている露出度の高い赤の服に着替えた。
そして、自らの胸に手を当てながら言う。
「しかし、ウェン様には驚かされました……人間のウェン様が、私のことを綺麗だと仰ってくださるとは……」
そして、続けて口角を上げて言う。
「私、体にはそれなりに自信があるのです────ウェン様は、私の体を見てくださった場合、どのような反応をしてくださるのでしょうか?」
そんなことを想像し、ローズはどこか楽しげに微笑みながら魔王の間を後にした。
◇ウェンside◇
────魔王さんが突然開いた転移魔法によって、僕は長いテーブルにたくさんの料理が置かれている空間へとやって来た。
「こ、ここは……」
僕が突然やって来た空間に困惑していると、僕のことを抱きしめていた魔王さんが僕のことを抱きしめるのをやめて言った。
「魔王城の食堂よ、今日はウェンくんが来る日だから、たくさんお料理を用意しておいたの」
そう言うと、魔王さんは僕のことをそのテーブル前にある椅子に座るよう合図を出して来たので僕がそこに座ると、魔王さんは僕の隣に座った。
そして、魔王さんはとても優しく微笑んでくれながら言う。
「ウェンくん、目の前の料理を好きなだけ食べてもいいのよ?」
「い、いいんですか?」
「えぇ、一緒に食事をしながら、お話しましょう」
さっきまでの状況を考えればあまりにも突然なことだけど、今日はまだご飯を食べてないし、魔王さんのことは色々と知りたいからそういう意味でも良い機会かもしれない。
「いただきます」
そう言うと、僕は早速魔王さんのお言葉に甘えて目の前にある料理を食べ始めさせてもらうことにした。
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