第25話 伝えられなかったこと
「シャル……?どうして僕の部屋に────」
僕が、朝起きて突然シャルが隣に居ることに困惑と驚きの声を漏らそうとした時、シャルが慌てた様子で言った。
「か、勘違いしないで!?別に、ウェンが寝てる間にウェンに何かしようとしてたとかじゃなくて、なんていうか……ウェンの顔を、見たくなっただけだから」
最初の方は慌て口調で話していたシャルだけど、最後の言葉は落ち着いた声音で言った。
……僕の顔を、見たくなった?
「どうして、僕の顔を見たくなったの?」
「別に、今日だけじゃなくて私はウェンの顔を見てる安心感があるからいつもウェンの顔を見たいと思ってる────けど、今日はこの後、十年間の間ウェンのことを苦しめ続けてきた魔王と会うから、その前にウェンと二人だけの時間を過ごしたいなって思ったの……昨日の夜合流場所にした館の玄関前に向かったら、あの魔王の側近の女も一緒になって、そうなったらウェンと二人で話せる時間がもう無いから」
「確かにそうだね……そう考えると、僕もシャルと話したいと思うよ」
僕がそう言うと、シャルは明るく微笑んだ。
そして、シャルは僕の乗っているベッドの上に座ると、僕の手の甲に自らの手を重ねて言った。
「ねぇ、ウェン……私、魔王を倒して、ウェンが魔物に狙われることに終止符を打つことができたら、ウェンに伝えたいことがあるの」
「僕に……伝えたいこと?」
僕がそう聞き返すと、シャルは頬を赤く染めて頷いて言う。
「うん……ずっと抱いてたものだけど、ずっと伝えられなかったこと……」
シャルが何を伝えたいのか、それはシャルがそのことを伝えてくれるまでは定かになることは無いけど、シャルの雰囲気からして大事なことを伝えたいと考えていることは間違いないみたいだ。
「わかったよ、シャル……この件が落ち着いたら、それをちゃんと聞き届けるね」
「っ……!ありがとう、ウェン……!」
シャルは、とても明るい笑顔になった……本当に、シャルは僕にとってとても大切な存在だ。
その後、僕とシャルは普段通りに雑談を交わすと、一度シャルは部屋に戻り、それぞれ準備を整えてから館の玄関へと向かった。
すると、そこにはローズさんが居た。
「おはようございます、ウェン様、シャルさん」
「おはようございます、ローズさん」
「……ねぇ、別にどうでもいいことだけど、実はずっと気になってたことが一つあるから聞いてもいい?」
「はい、何でしょうか?」
シャルの言葉に頷いたローズさんに対して、シャルはその気になっていたことを口にした。
「どうして、ウェンのことは様付けで呼んでるのに、私はさん付けなの?」
……シャルも自分で言っていた通り、少なくとも今から魔王と会うことを考えれば全然気にするようなことでは無いけど、そういえばそのことは僕も頭のどこかでは引っかかっていたため、気になるところだ。
シャルにそう聞かれたローズさんは、口を開いて言った。
「それは、魔王様がお二人に抱いている思いと大いに関係していますが、そのこともやはり私の口からではなく直接魔王様に会っていただいた方がおわかりになられると思います」
ローズさんが僕たちの敬称を変えているのも、魔王の思いが関係している……?
……ますます、魔王が一体どんな人物なのかわからなくなったけど、ローズさん曰く直接魔王に会えばそのこともわかるそうだ。
「……よくわかんないけど、それなら早速今から魔王の元に案内してもらえる?」
「はい、元よりそのつもりです」
そう言うと、ローズさんは転移魔法でゲートのようなものを作った。
「この先に、魔王様が居ます……どうぞ、私の後に続いてください」
ローズさんは、そう言い残すとそのゲートの中へと入った。
僕とシャルは、互いに顔を見合わせて言う。
「ウェン!魔王なんてちゃちゃっと片付けちゃって、いつもの日常に戻ろうね!」
魔王がどうして僕のことを狙っているのか、その理由はしっかりと聞かないといけないけど、魔王が居る限り僕はきっと魔物に狙われ続けるから、シャルの言う通り魔王は倒さないといけない。
そして、魔王を倒したら────
「うん!シャル、また二人で一緒に楽しく過ごそう」
互いにそう言い合うと、僕とシャルは二人で一緒に魔王の居る場所へ続くゲートへと入っていった。
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