第26話 魔王
────ゲートの中に入った僕たちは、黒と紫色、そして明るいランプで照らされた空間にやって来た。
……とても広い空間だ。
その空間には、絵画やオブジェクトが置いてあり────ローズを先頭としてその空間を奥に進むと、その存在は豪華な椅子に座っていた。
色白で艶のある長い白髪に、とても綺麗な水色の瞳……加えて、綺麗な顔立ちに透明感のある白い肌の女性。
この世のものとは思えないほどの美貌……一目見ただけでわかる────この人が、魔王。
僕たちが、魔王の目の前までやって来ると、ローズさんが魔王に頭を下げて言った。
「魔王様、お二方をお連れいたしました」
そして、ローズさんにそう言われた魔王は、透き通るような声で言った。
「えぇ、よくやってくれたわ」
そう言うと、魔王は立ち上がった────この人は、僕のことを十年間も魔物に狙わせ続けた人物。
僕に恨みがあるのか、もしくはそれ以外の何かなのか……理由はわからないけど、とりあえずこの人は僕のことを魔物に狙わせて来た人物だ。
そんな魔王が立ち上がったことにより、僕とシャルは魔王がいつ攻撃をしてきても良いように構えた。
そして、僕はずっと聞きたかったことを魔王に聞く。
「あなたは、どうして僕のことを狙い続けて来たんですか?それも、十年もの間」
僕が警戒を怠らずにそう聞くと、魔王はどこか悲しそうな声で言った。
「ウェンくん、私は別にウェンくんに危害を加えたくて魔物にウェンくんのことを狙わせ続けていたわけじゃ無いのよ」
「え……?」
僕に危害を加えるつもりじゃない……?
……でも────
「だとしたら、どうして僕のことを狙い続けて来たんですか?」
「それは────」
魔王が口を開いて僕の問いかけに答えようとした時、僕の隣に居るシャルが魔王に向けて炎魔法を放った。
「シャ、シャル?」
「ウェン!こんなやつの言うことなんて聞くことないよ!どんな理由であれば、この魔王がウェンのことを狙い続けて来たことに変わりは無いんだから!」
シャルが大きな声でそう言うと────シャルの炎魔法を受けたはずの魔王が、直前で防御魔法を使ったのか、無傷な様子で溜息を吐いてから小さな声で呟いた。
「ウェンくんに纏わりつく女……今すぐにでも私の手で消してあげたいけど、ウェンくんの方が絶対優先────ローズ」
ほとんど小さな声で呟いていた魔王だったけど、ローズさんの名前だけはハッキリと呼んだ。
「はい」
名前を呼ばれたローズさんがそう返事をすると、魔王が言った。
「少しの間、その女の相手をしておきなさい」
「かしこまりました」
そう言うと、ローズさんは僕と魔王、そしてシャルとローズさんを区切るように土魔法で石を作った。
「ウェン!」
僕のことを心配してくれるシャルに、僕は言う。
「僕は大丈夫だから、シャルは自分の身の安全を第一に考えて!」
「で、でも────っ」
シャルは何かを言おうとしたけど、その後でシャルとローズさんの方から魔法の衝突音のようなものが聞こえてきた。
おそらく、二人が戦っているんだろう。
僕が改めて魔王と向き合うと、魔王が口を開いて言った。
「……ウェンくん、どうして私がウェンくんのことを魔物に狙わせ続けて来たのか、だったわよね?」
「はい、そうです」
「良いわ、教えてあげる」
そう言うと、魔王は僕にゆっくりと近づいてきた……魔法の反応が無い。
さっきのシャルの時と違って、この距離なら僕が魔王に魔法を放てば倒せるかどうかはわからないまでも、致命傷は与えられることができる。
「……」
でも、無防備な魔王にそんなことをする気にもなれず、結果的に魔王が僕と距離を縮めてきて僕の目の前までやって来るまで、僕が魔王の次の言葉を待っていると────魔王は、僕のことを見て一度優しく微笑んでから、僕のことを正面から抱きしめて来て言った。
「私がウェンくんのことを魔物に狙わせ続けて来たのは、私がウェンくんのことを大好きだからよ」
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