第48話 三人

 僕がそうローズさんにお礼を伝えると、ローズさんは言った。


「ウェン様が頭を下げられることなど、何もありません……私はただ、魔王様の側近として為すべきことを為してきただけなのです……ですが」


 目を閉じて頭を下げている僕の方に、前方から足音が近づいてきたため、僕が目を閉じたまま頭を上げると────ローズさんの声が目の前から聞こえてきて、ローズさんは僕の左手を両手で握って言った。


「魔王様の想い人であり、私のことを綺麗だと仰ってくださったウェン様にそう言っていただけるのであれば、私はとても嬉しく思います」

「ローズさん……」


 そして、ローズさんが小さく微笑んだ声が聞こえてきて、僕の左手から自らの両手を離した────その直後。

 僕の後ろから慌ただしい音がすると思ったら、このお風呂場にネルミアーラさんの大きな声が響いた。


「ローズ!今ウェンくんに何をしようとしたのかしら!?」


 それに返事をする形で、ローズさんが言う。


「少しウェン様のことが愛らしく感じましたので、抱きしめさせていただきたくなっただけですよ」


 そして、そのローズさんの言葉に、今度はシャルが大きな声で言った。


「だけ、じゃ無いから!抱きしめるってすごいことだから!大体、お互い服も着てない状態で肌を重ねて抱きしめるなんて、そんなの……そんなの!絶対ダメだから!!」

「今のは流れで良いものかと」

「ダメ!」

「ダメよ!」


 シャルとネルミアーラさんは、同時にそう言った。

 すると、ローズさんはそんな二人のことを見てか、不思議そうな声音で言う。


「お二人は、つい先ほどまで険悪な仲だったと記憶していますが、この短期間でとても仲良くなられたようですね」

「仲良くなんてなってないから!ただ、ウェンが私たちに言い争って欲しく無いって言うから仕方なくある程度は抑えてるだけで……」

「仲良くなんてなっていないわ!ただ、ウェンくんが私たちの言い争う姿を見て悲しんでいたから、抑えているだけよ」


 そんな二人の言葉を聞いて、ローズは言った。


「私の居ない間に色々とあったようですが……私の居ない間に、シャルさんはウェン様にお気持ちを告白なされたのでしょうか?」

「そう────って!なんで私の気持ちを知ってるの!?」


 シャルは、大声そう言って驚いた。

 ……確かに、どうしてローズさんがシャルの気持ちを知っているんだろう。

 僕もシャルと同じことを思っていると、ローズさんは小さく笑いながら言う。


「どうして、と言われましても、見ていれば一目瞭然でしたから」

「っ……!」


 シャルが小さく声を漏らしたけど、僕は僕で少し恥ずかしくなっていたというか、シャルに申し訳ない気持ちになっていた……どうして少ししか会っていないローズさんは気づけたのに、僕は今までシャルの気持ちに気づけなかったんだろう。

 僕がそんなことを思っていると、ローズさんは間を空けずに言った。


「しかし、まさかウェン様がお二人のことをお選びになるとは思いませんでしたので、少々驚きました」

「どちらかを選んだ方が良いのかもしれないとも思いましたが、二人のことを僕が幸せにしたいと思ったので、僕はその気持ちに従うことにしました」

「ウェン……」

「ウェンくん……」


 シャルとネルミアーラさんがそんな声を出すと────その直後に、おそらくはローズさんが再度僕の左手を自らの両手で握って言った。


「でしたらウェン様、私もウェン様のことをお幸せにして差し上げたく、そしてウェン様に幸せにしていただきたく思いますので、お二人と言わずに私も含めて、私たち三人と共に幸せになりませんか?」

「え……!?」


 ローズさんにそう言われた僕が困惑と驚愕の気持ちを抱くと、その直後────シャルとネルミアーラさんがローズさんに対し、すごい勢いで怒りの言葉を向けて、お風呂場はしばらくの間とても四人しか居ないとは思えないほどに騒がしくなった。

 僕は三人のやり取りに耳を傾けながらも、いつ目を開けて良いのかな、と少し戸惑っていた。

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