第47話 お礼
しばらくの間二人と抱きしめ合い続けていると……僕はそういえば、とあることを思い出して、一度二人のことを抱きしめるのをやめて言った。
「そういえば、僕たちお風呂から出てきたままの格好だったんですね」
僕がそう言うと、二人も一度僕のことを抱きしめるのをやめて言う。
「本当だ!体をタオルで巻いてるけど、湯冷めしちゃうかも!」
「それなら、一度お風呂に戻りましょう」
ネルミアーラさんがそう言うと、ネルミアーラさんは転移魔法を発動した……そして、次の瞬間には、僕とシャル、ネルミアーラさんの三人は湯気の出ているお風呂場へと戻って来た。
「ネルミアーラさん、ありがとうございます!」
「……大したことじゃないから、感謝なんてしなくていいのよ」
そう言いながらも、ネルミアーラさんは頬を赤く染めていた。
僕が、そんなところにネルミアーラさんの可愛げのようなものを感じていると、シャルが言った。
「じゃあ!早速またお風呂浸かっちゃおうよ!」
「うん、そうだね」
僕たち三人が、一緒にお風呂に入────ろうとした時、僕たちは同時に足を止めた……何故なら、僕たちがお風呂に入る前に、もうすでにお風呂に入っている人が居たからだ。
「お三方とも、ようやくお戻りになられましたね」
お風呂に浸かりながらそう声を発したのは、湯気で少し見えにくくなっていたけど────ネルミアーラさんの側近のローズさんだった。
「あなた、ここに私たちが来るとわかっていたの?」
ネルミアーラさんがローズさんにそう聞くと、ローズさんは言った。
「はい、魔王様とウェン様の魔力反応が、脱衣所ではなくお風呂場から魔王様の部屋へと転移していたのに加え、バスタオル姿で走っているシャルさんの姿を目撃しましたので、再度お風呂に浸かりに来る、もしくは着替えを取りに来るなどのためにこの場へ戻ってくると予測していました」
「そう……それで────」
魔王さんがそう言いかけたとき、ローズさんは立ち上がる素振りを見せた。
「っ……!」
「ローズ……!」
────その瞬間、ネルミアーラさんが突然目の前に氷魔法の壁を作ったかと思ったらその直後に僕の視界は暗くなった。
……え?
「な、何が起きて……?」
僕が、突然のことに理解が及ばず困惑していると、水飛沫の音が聞こえた……視界が暗くなっていて見えないけど、おそらくローズさんが立ち上がったんだと思う。
すると、その直後に前方からネルミアーラさん、そして真後ろからシャルの声が聞こえてきた。
「あなた、タオルも体に巻いていないのにウェンくんの前で浸かっていたお風呂から立ち上がるなんて、何を考えているのかしら?」
「本当にそうだから!ネルミアーラが氷魔法で壁作ったり、私がこうしてウェンの目を覆ってなかったら今頃……!」
どうやら、今僕の真後ろに居るシャルが僕の目を覆っているから視界が暗転しているみたいだ。
「私は是非とも、魔人である私のことを綺麗だと仰ってくださったウェン様に私のお体を拝見していただきたく────」
「そんなこと私が許すはずがないでしょう!」
「私だって許さないから!」
「お二方とも、少し見ない間に随分と仲を深められたのですね……それに、魔王様のお名前を……もしや、ウェン様が魔王様の記憶を思い出されたのですか?」
僕の方に向けて、ローズさんがそう聞いてきたため、僕はそれに答える。
「はい、思い出しました」
僕がそう答えると、ローズさんは少し驚いた声を漏らした……そして、ローズさんはとても優しい声音で、自分のことのように嬉しそうな声音で言った。
「ウェン様が魔王様との過去の記憶を思い出されたこと、心より祝福いたします」
……ネルミアーラさんの側近であるローズさんは、ネルミアーラさんの僕との過去の話とか、僕の記憶のこととかも全て知った上で、ずっとネルミアーラさんのことを支え続けてくれていたはずだ。
「……シャル、目は閉じてるから、僕の目から手を離してくれるかな」
「……うん、わかったよ」
そう言うと、シャルが僕の目から手を離してくれた。
「……ネルミアーラさん、氷魔法を無くしてもらえませんか?」
「……えぇ、わかったわ」
ネルミアーラさんがそう言うと、氷魔法の崩壊する音が聞こえてきた。
これで僕とローズさんの間を阻むものは無くなったため、僕は────
「ローズさん、ずっと……ずっと、ネルミアーラさんのことを支え続けて来てくださって、本当にありがとうございます……!そのおかげもあって、僕は今こうしてネルミアーラさんと気持ちを通わせることができました」
頭を下げて、ローズさんに心からお礼を伝えた。
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