第34話 敵対視

 魔王さんと一緒に料理を食べ終えた僕は、魔王さんにお礼を言う。


「魔王さん!料理を作ってくれて、本当にありがとうございました!」


 僕がそうお礼を言うと、魔王さんはどこか照れた様子で言った。


「りょ、料理ぐらい簡単なことだから、お礼なんて言わなくて良いわよ」

「いえ!魔王さんが僕のことを思って作ってくださったのが伝わってきたので、本当に嬉しいんです!だから、ありがとうございます!」


 再度僕が感謝を伝えると、魔王さんは頬を赤く染めてどこか嬉しそうにしていた。

 それから少し間を空けて、僕はふと思ったことを聞く。


「そういえば、シャルとローズさんは今どうしているんでしょうか?」


 僕がそう聞くと、魔王さんは切り替えるように頬を赤く染めるのをやめて落ち着いた表情と声音で言った。


「わからないわ、けれどあの女はウェンくんのことを必死に探したいと思っているでしょうから、もしかしたら今頃必死にこの魔王城を走り回っているんじゃないかしら」


 あの女、というのはおそらくシャルのことなんだろう……それにしても。


「あの、どうしてシャルと魔王さんはなんだか険悪な雰囲気になっているんですか?」


 シャルは魔王さんの事情を理解したはずだし、魔王さんもシャルに攻撃されたりはしたけど、それもシャルが魔王さんの事情を理解したことでひとまず落ち着いたはずだから、僕が知る限りではもうシャルと魔王さんがお互いに敵対視し合わないといけないような理由は無いはずだ。

 僕がそんな考えから生まれた疑問を魔王さんに投げかけてみると、魔王さんは言った。


「ウェンくんはわからなくていいことよ、一言で言うなら女同士の戦い……といったところかしら」

「は、はぁ」


 女同士の戦い……よくわからないけど、僕にはわからなくて良いことで、今僕がわかっていないんだったら今はとりあえずこのままで良いのかもしれない。


「そういえばウェンくん、ここまでの長旅でかなり疲れているんじゃないかしら?」

「え?……はい」


 昨日ローズさんの館で休ませてもらったとは言っても、やっぱり今までの旅の疲れは一晩だけで取れるほど少なくはない。

 僕が素直にそう返事をすると、魔王さんが言った。


「だったら、魔王城のお風呂を使ったらどうかしら、今までは旅の先のお風呂ということもあって満足な広さは無かったと思うけれど、この魔王城のお風呂なら広いからウェンくんもゆったりできるはずよ」

「お風呂……!入っても良いんですか!?」

「えぇ、一緒に入りましょう」


 広いお風呂……久しく入っていないから、とても楽しみだ。

 今日だけでも色々とあったから、リラックスできる良い機会に────


「一緒に!?」


 僕は、最後の最後で思わぬ言葉が添えられていたことに驚きを抱きながらそう言うと、魔王さんは僕のことを後ろから抱きしめてきて言った。


「えぇ、一緒によ……私と一緒に生活をすると言ったんだから、お風呂に一緒に入らないなんて絶対に許さないわよ?」

「そんな────」


 僕が反論しようとしたところで、突然視界が変わったかと思えば────僕と魔王さんは、脱衣所のようなところにやって来ていた。


「い、いつの間に!?」

「転移魔法だよ、ほらウェンくん、あっちの方で着替え────」


 魔王さんがそう言いかけた時、僕のことを抱きしめていた魔王さんは突然吹き飛んだ。


「え!?ま、魔王さん!?」


 突然のことに僕が驚愕していると────


「ウェン!」


 正面からシャルの声が聞こえ、今度はシャルが僕のことを抱きしめてきた。


「シャ、シャル!?どうしてシャルがここに居るの!?」


 現状を何も理解することができずに僕がそう声を上げると、シャルは魔王さんの方を見ながら言った。


「魔王の考えなんて全部お見通し!ウェンと一緒にお風呂に入るのは私だから!!」


 そう言われた魔王さんは、すぐに着ている服に付いた埃を払う素振りを見せると────シャルの方を冷たい目で見ながら、強力な魔力を放った。

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