第8話 愛
◇シャルside◇
私たちが、それぞれ私とウェンに割り当てられた部屋に入ってドアが閉まった瞬間────私はベッドにダイブして、枕に顔を埋めて枕のことを抱きしめると、足をバタバタさせながらその感情を抑えられずに言った。
「もう〜!今回はアクシデントっていう絶好の形でウェンと同室で一晩を過ごすチャンスだったのに、なんで部屋空いちゃうの!?普通宴会に行くからってわざわざ宿アウトさせちゃう!?……夜通しだからってことかな?だとしてもわざわざ一手間かけて解約しなくても────他の宿に泊まりたい人たちに配慮した、のかな……あ〜!もう!どんな理由にしても、とにかく私の望みと実際に起きたことが何もかも噛み合ってない〜!!」
しばらく現状への不満を言葉にした私は、一度落ち着いて枕から少し顔を逸らして言った。
「さっきのあの女がウェンのことをどういう意図で誘ったのかはわからずじまいだけど、本当にそういうつもりでウェンのことを誘ってくる女もこの先出てくるかも……そうなった時────ううん、そうなる前に!私が堂々とウェンの恋人だって表明できるようにしないと!」
そう意気込みを決めて、再度ウェンとの未来に明るいものを見出した私は、お風呂に入って早いうちに眠ることにした。
◇魔王軍side◇
「そろそろウェン様がお風呂に入られるようですね」
「えぇ、そうね」
そう言うと、魔王はウェンが服を脱ぐ手前の入り口の部屋へ遠隔視覚をずらした。
それを見た赤髪の側近は呆れた様子で言った。
「いつも思っていますが、それほどまでにウェン様のことを恋しく思っているのであれば、ウェン様のお風呂も見ればよろしいと思いますが」
赤髪の側近が放った言葉に対して、魔王は大きな声を出して怒った様子で言った。
「前も言ったけれど!そんなことしたとウェンくんに知れたら、ウェンくんに気味悪がられるからできないに決まってるじゃない!」
「ウェン様に知られることなどありませんよ」
「私がなんだか後ろめたくなってしまうのよ!」
「そういうものなのですね……でしたら、後ろめたく無い状況を確立できた場合はどうなさるのですか?」
ふと反対の状況でのことが気になった赤髪の側近がそう聞くと、魔王の答えも反対になっていた。
「見るに決まってるじゃ無い、あのウェンくんの体を見れる状況にありながら見ない方がどうかしているわ……もっとも、どちらにしても私以外の女が見たのならその女の子とは絶対に許さないけれど」
「まぁ、とても重たい愛ですね」
「重たいんじゃなくて大きいのよ……ウェンくんへの愛も、人間への恨みも」
────ウェンへの愛情も、人間への恨みも、永遠に無くなることが無いということを、赤髪の側近は理解していた。
「ウェン様、シャルさん、人間、魔王軍────これから、とても楽しそうなことが始まりそうですね」
「あなたが楽しむのは勝手だけれど、私の望みはただ一つよ────ウェンくんと未来永劫一緒に生きていくこと、それだけ」
「……魔王様の望みのため、尽力させていただきます」
◇ウェンside◇
次の日の朝、目を覚ました僕は身支度を済ませると、隣のシャルの部屋のドアをノックした。
「シャル、起きてる?」
僕がそう聞くと、その部屋のドアが開き、そこからシャルが出てくるとシャルは元気な声で言った。
「うん!もう身支度もバッチリ!」
「流石だね、シャル」
「でしょ〜?」
……昨日の別れ際はシャルの様子が暗かったみたいだからそのことが少し気になっていたけど、今の感じを見るともうすっかりいつも通りのシャルみたいだ。
「じゃあ、宿を出てまた旅を再開させよう」
「うん!」
その後、それぞれ荷物を持ち、宿の大家さんにお礼を言って宿を出た。
そして、街の外へと続く門へ向けて歩き出そうとした────その時。
「ウェン!」
隣に居るシャルが大きな声で僕の名前を呼んだ。
「どうしたの?シャル」
僕がそう聞くと、シャルは僕のことを指差して大きな声で続けた。
「今日から私、頑張るから!覚悟しててね!!」
「……え?ど、どういうこと────」
「それだけ!ほら、早く行くよ!!」
そう言うと、シャルは僕の手首を握って街の外へと続く門へ向けて歩き出した。
よくわからないけど、どうやら僕は見誤っていたらしい────シャルはいつも通りではなく、いつも通り以上に元気になっているようだ。
僕はそのことを嬉しく思いながら、シャルと一緒に街の外へと続く門へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます