第45話 衝突
そして、僕とネルミアーラさんが抱きしめあっているのを視界に映したシャルは、驚いた様子で言った。
「ウェ、ウェン!?ど、どうして魔王と────」
驚いた様子でそう言いかけたシャルだったけど、すぐに口を閉ざしてから再度口を開き、暗い声で言った。
「まさか、私が居ない間に、私の気持ちに応えてくれたウェンのことを、無理やり魔法で……」
「え……?」
シャルは、どうやら今の状況を見てとても大きな誤解をしているみたいだった。
でも、それも仕方のないことだ……ついさっき、お風呂でシャルにその気持ちを告白されて、僕もシャルの気持ちに応えたのに、次に出会った時には僕とネルミアーラさんが抱きしめ合っていたとなれば、シャルがそう誤解するのも仕方のないこと。
だけど────
「シャル、違うんだ、これは────」
「魔王!!」
シャルは、攻撃目的ではなくあくまでも移動させるという目的で僕に風魔法を放ち、僕のことをネルミアーラさんから引き離すと、ネルミアーラさんに向けて魔法を放とうと手をかざした────僕は、すぐに風魔法で自らのことを押し出して、シャルとネルミアーラさんの間に割って入って言う。
「待ってシャル!ネルミアーラさんのことを攻撃なんて────」
「ウェンはあの魔王に洗脳されてるの!目覚ま────ネルミアーラ……?」
シャルは、聞き覚えのない名前を耳にしたことで、一度ネルミアーラさんに向けていた手を下すと、僕の言葉に耳を傾けるように僕の方を見てきた。
僕は、そんなシャルの疑問に答えるように言う。
「うん、この魔王さんの名前は、ネルミアーラさんって言うんだ……僕は、過去にネルミアーラさんと出会った記憶を全て思い出したんだよ」
「魔王……ネルミアーラと出会った記憶を、思い出した……?じゃあ、記憶の封印はもう解けたの?」
「そうだと思うよ……過去のネルミアーラさんとのやり取りがきっかけとなって思い出したみたいなんだ……僕は、この記憶を思い出せて本当に良かったと思ってるよ……そのおかげで、ネルミアーラさんの気持ちに寄り添うことができるから」
「気持ちに、寄り添う……」
シャルは、そう呟いた後、少し落ち着いた様子で言った。
「ウェンの記憶が戻ったのは良いことだと思うよ、どんな記憶だったとしても自分の記憶が欠けてるっていうのはやっぱり不安だと思うし、ウェンの記憶が戻ったなら私もそれは嬉しい……けど」
「けど?」
次の瞬間、シャルは大きく口を開いて大きな声で言った。
「いくらそのネルミアーラとの記憶を思い出したからって!私と愛を伝え合った直後に私以外の女のネルミアーラと抱きしめ合ってるっていうのはどういうことなの!?洗脳されてるんだったら全部ネルミアーラのせいにできたのに、洗脳されてないんだったら私ウェンにも怒らないといけないじゃん!」
「そ……それは────」
僕がシャルに弁明を図ろうとした時、少しの間僕とシャルの会話に何も口を挟んでいなかったネルミアーラさんが口を開いて言った。
「ウェンくんが私のことを選んでしまうのも仕方の無いことよ、私との記憶を思い出して、ウェンくんは十年の間積もりに積もった私の愛情を感じてくれたのだから」
「わ、私だってウェンのことずっと好きだったから!!愛の大きさじゃ負けてないし!!」
「あら、それなら女性としての魅力で私に劣っているということじゃないかしら」
「はぁ!?ふざけな────」
……今なら、どうしてこの二人がこんな風に言い争ってしまうのかがわかる。
────それは、二人が僕に同じく恋愛感情を抱いてくれているからだ。
だからこそ、その思いが衝突していつも言い争いになってしまっている。
だけど、僕のことを好きで居てくれる二人が、僕のせいで言い争うなんて、僕には耐えられない。
僕は、二人のことを優しく風魔法で僕の方に近づけると、二人のことをそのまま抱きしめた。
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