第44話 記憶

「ウェ、ウェンくん!?どうして私の名前を……?それに、ウェンくんの方から私のことを抱きしめるなんて────」

「全部!思い出しました!僕、ネルミアーラさんと昔出会った記憶、今……全部、全部思い出しました!」

「思い、出した……?私と過去出会った記憶を……?」

「はい!」


 僕がそう伝えると、突然のことに少しの間固まってしまったネルミアーラさんは────


「ウェンくん!!」


 嬉そうな声で僕の名前を呼ぶと、ネルミアーラさんは僕のことを力強く抱きしめて続けて言った。


「ウェンくん!本当に、本当に全て思い出したのね!?」

「はい!思い出しました!会いに行くと約束をしてから、こんなにも時間が経ってしまって、本当にすみません」

「良いわ、良いのよ……ウェンくんが私との記憶を思い出してくれて、今こうして私のことを抱きしめてくれている……それだけで、私は幸せだわ」


 涙を流してそう言うネルミアーラさんに、僕は言う。


「そんなの、いくらでも抱きしめるに決まってるじゃないですか、ネルミアーラさん……」


 その後、僕とネルミアーラさんは少しの間抱きしめ合った。

 ネルミアーラさんの温もりや、ネルミアーラさんが目の前に居るという事実……僕は、そのことがとても心地良く感じられた。

 そして、ネルミアーラさんの涙が落ち着いてきた頃、ネルミアーラさんが言った。


「ウェンくん、私との過去の記憶を思い出したということは、私との過去の会話内容も思い出したということよね?」

「はい、思い出しました!」


 僕がハッキリとそう言うと、ネルミアーラさんは僕のことを抱きしめたまま僕と顔を合わせて言う。


「それなら、私が将来ウェンくんのお嫁さんになると言ったことも思い出しているわよね?」

「え!?えっと、それは、その……」


 そう聞かれて、どう答えれば良いのか分からず、僕の中には先ほどまでとは打って変わって、困惑や恥ずかしさというものが込み上げてきた。

 すると、ネルミアーラさんは右腕で僕のことを抱きしめたまま左手で僕の左頬に触れながら言う。


「頬が赤くなっているわよ?これは、その言葉を覚えているという証拠じゃないかしら」

「っ……!」


 そして、ネルミアーラさんが僕の左頬を撫でるように左手を動かすと、僕は少し間を空けてから言った。


「お、覚えてます……でも、あれは、子供の頃に言ってたことで、ネルミアーラさんが僕のお嫁さんなんて────」

「あら、過去の記憶を思い出したことで直近の記憶が失われているのかしら?いいえ、そうだったとしても、何度でも言ってあげるわ……私は今も昔も、そしてこれから先もずっと、ウェンくんのことが大好きよ」


 そう言って、ネルミアーラさんは再度僕のことを両腕で抱きしめてくると言った。


「ウェンくん、私のことを、ウェンくんのお嫁さん……今の私たちに相応しい言い方をすれば────私のことを、妻……にしてくれないかしら」

「つ、妻……!?」

「当然、記憶を思い出したばかりのウェンくんにそんなことを強制するつもりは無いわ、私はウェンくんが私との記憶を思い出してくれたというだけで本当に幸せな気持ちでいっぱいだから……けれど、私はそれだけじゃなくて、もっとウェンくんのことを深く愛してあげたいのよ」


 ネルミアーラさんは、僕と目を合わせて、愛情の込められた瞳で僕のことを見てきて言った。

 僕は、その瞳からネルミアーラさんの愛情を強く感じ取る。


「ネ、ネルミアーラさん……」

「だからウェンくん、今すぐでなくとも良いから、私と────」


 魔王さんがその続きを言いかけた時、突然何か大きな音が聞こえたと思い、僕がその音の方を振り向くと────


「ウェン!」


 バスタオルを体に巻いたままのシャルが姿を現した。

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