第43話 処置

「え……?」


 近くから突然そんな声が聞こえたと思ったら、大きな足音と共に鎧を着た人たちが僕とネルミアーラさんのところへやって来た。


「私としたことが、こんなに近づいてきている人間の気配に気づけないなんて、浮かれていたわね……」


 ネルミアーラさんは小さな声でそう呟いていたけど、その直後に鎧を着た人たちのうちの一人が言った。


「待て!魔人の隣に子供が居る、迂闊に手を出すな!」


 そして、続けて僕に話しかけてくる。


「君!そこの魔人は危険な存在だ、今すぐ離れなさい!」

「え……?ま、待ってください!ネルミアーラさんは危険な存在なんかじゃ無いです!」

「さっきの魔力を君も感じただろう!それとも、洗脳状態にあるという可能性もあるのか……」

「子供だから安全と危険の分別が付かないという可能性もあるが、ひとまず無理にでもあの魔人からそこの子供を引き離────」


 鎧を着た人たちが話をしていると、その途中でネルミアーラさんが今までとは比にならないほど強力な魔力反応を放って言った。


「ウェンくんを私から引き離す?冗談でしょう?そんなことを口にしたあなたたちには────」


 そう言いながらその鎧を着た人たちに対して、ネルミアーラさんは右手をかざした────けど、僕はその間に割って入るように両腕を広げて言う。


「ネルミアーラさん!あの人たちのことを傷つけないでください!そんなことをしたら、ネルミアーラさんが本当に危険だと誤解されちゃいますよ」

「で、でも……」


 僕は、かざされていたネルミアーラさんの右手を両手で握って言った。


「また落ち着いたら、必ずネルミアーラさんに会いにこの場所に来ます……だから、ネルミアーラさんは待っていてください」


 僕がそう言うと、ネルミアーラさんは魔力反応を放つのをやめて言った。


「ウェンくんがそう言うのなら、わかったわ……私はウェンくんのお嫁さんになるのだから、必ず私の元へ来て」

「はい……約束します」


 僕は、その両手に強く力を込めると、ネルミアーラさんから手を離し、その鎧を着た人たちの元へ行った。


「き、君、大丈夫か?」

「大丈夫です、ネルミアーラさんは危険な存在なんかじゃありません!」


 僕がそう言うと、鎧を着た人たちは小さな声で会話を始めた。


「あれほどの魔力、それに白髪、もしや……」

「あぁ、幼いと噂の魔王かもしれん」

「言われてみればその風格がある」

「だが、今は子供の保護が最優先だ……魔王と話してしまった子供、か……幸い外的外傷は無いようだが、もしかしたら精神の方に何かをされているかもしれん」

「となると、あの処置が必要か」

「そうだな……」


 ……あの処置?


「あの、何か処置が必要なんですか?」


 僕がそう聞くと、鎧を着た人たちは優しい声音で言った。


「あ、あぁ、少し色々と手続きがあってな」

「そうなんですね」


 よくわからないけど、その辺りのことは大人の人に任せよう。

 僕は、ネルミアーラさんに手を振り、手を振替してくれたネルミアーラさんのことを視界に収めると、鎧を着た人たちに連れられて山を降りた。

 そして────その日のうちに、僕はネルミアーラさんと出会った時の記憶を封印された。



◇ネルミアーラside◇

 魔王城に帰った私は、居ても立っても居られずウェンくんのことを魔法で覗き見した────けれど、そこにはウェンくんが人間たちによって私と出会った記憶を封印されている光景が映し出され……私はこの瞬間から、伝えることのできない愛情と人間への憎悪、そしてウェンくんとの永劫に叶わないとすら思える約束を持ち始めることになった。



◇ウェンside◇

 そんな過去の記憶を思い出した僕は、目を覚ますと────


「ウェンくん!良かったわ、目が覚めたのね」

「ネルミ、アーラさん……ネルミアーラさん!!」

「えっ……!?」


 体を起こして、目の前に居るネルミアーラさんのことを力強く抱きしめていた。

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