第29話 記憶の封印
「今……なんて言いましたか?」
僕が、その言葉に思わず自分の耳を疑うと、魔王さんは再度口を開いて言った。
「ウェンくんは十年前、私と会った直後に人間の手によって、私と会った記憶を封印されていると言ったのよ」
記憶が……封印されている?
「魔王と関わった人間なんて、一部の人間にとっては邪魔でしか無いもの」
確かに、魔王と関わった人が居るとしたら、それは間違いなく人類にとって不穏な存在となる……昔までなら命を奪う対象になってしまっていたのかもしれないけど、今は魔法学校というものができるほどに魔法が発展してる時代だから、洗脳、魅了、催眠魔法などの応用で記憶に関与する魔法もこの世にはあるはずだ。
あるはず……だけど────
「僕は、記憶の封印なんてされていません!十年前のことだってちゃんと覚えてます!」
僕が強くそう言うと、魔王さんが落ち着いた声音で言った。
「それなら、十年前の記憶を思い出してみて?……あまり無理はしないようにね」
最後の部分だけ、魔王さんは優しい声音で言った。
無理なんてしなくても、思い出せるはずだ。
とは言っても、十年も前のことだからしっかりと思い出さないと鮮明には思い出せないだろうけど……大丈夫、ゆっくり集中して思い出せば絶対に思い出せるはずだ。
十年前、僕が五歳の時……その時からもうシャルは一緒に居て、基本的にはシャルと過ごしていた。
印象に残っていることと言えば、シャルの家の屋敷で食べさせてもらったご飯がとても美味しかったり、初めて土魔法を会得したり……あとは確か────
「っ……」
その先を思い出そうとしたところで、僕に頭痛が走った。
再度思い出すように試みる。
「……っ」
だが、またも頭痛が走った。
僕がそのことに困惑していると、目の前の魔王さんが言った。
「もうやめてウェンくん、これでわかったでしょう?ウェンくんは、私と会った記憶を封印されているのよ」
「まさか……でも……」
事実、僕が十年前の記憶を思い出そうとすると頭痛が走るから────魔王さんの言っていることは、きっと本当なんだろう。
そして、何より……目の前に居る魔王さんの表情や目、声音が嘘をついているようなものには思えず、とても優しさに満ち溢れていた。
……これ以上、この人の言葉を疑うようなことはしたくない。
「わかりました……僕は、魔王さんの言葉を信じます」
「ウェンくん……!」
僕がそう言うと、魔王さんは僕のことを嬉しそうな表情で抱きしめてきた。
「あ、あの……!魔王さんみたいな綺麗な人に抱きしめられるのは少し恥ずかしいので、できたらそんなに簡単に僕のことを抱きしめるのは────」
「き、綺麗……!?わ、私のことを今綺麗と言ってくれたの!?」
頬を赤く染めて先ほどよりも嬉しそうな表情でそう言うと、魔王さんはさらに僕のことを抱きしめる力を強めた。
「ありがとう、ウェンくん……!私もウェンくんのことを、とてもカッコいい男の子だと思っているわ!」
「え、えぇ!?」
僕が、今目の前に居る魔王さんにどう対応すれば良いのかと困惑していると────突然、僕と魔王さんの横にある、僕と魔王さん、そしてシャルとローズさんのことを遮るためにローズさんが土魔法で建てた石が壊れたと思ったら、そこからシャルが出てきて、シャルは怒っているような声音で言った。
「ウェンから離れて!!」
そう言うと、シャルは魔王さんの方に向けて手を構えた。
「ま、待ってシャル────」
そんな僕の声はシャルには届かず、シャルは魔王さんに向けて炎魔法を放つ。
すると────魔王さんは僕のことを抱きしめたままそれを回避した。
そして、今度はシャルに続けてローズさんもその石の奥から僕たちの前へやって来て言う。
「申し訳ありません、魔王様……石を破壊されてしまいました」
ローズさんがそう頭を下げると、僕のことを抱きしめている魔王さんが強力な魔力を放ちながら言った。
「私の伝えたいことはひとまず伝えられたから、問題ないわ────それに、この女のことは、私がこの手で直接倒したいと思っていたのよ」
────そう言う魔王さんの雰囲気は、魔王と呼ばれる存在を聞けば誰もが思い浮かべる威圧感があった。
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