第22話 綺麗
◇ウェンside◇
「────それで、今ローズさんがこの場に居ないんだね」
シャルから、ローズさんと話したことを一部始終聞いた僕はシャルにそう伝えた。
すると、シャルは頷いて言う。
「そう!でも、わざわざ姿を消したってことは、私の提案通りに次戻って来る時は普通の服を着てるはず!」
「そうだね」
「だけど────」
シャルは、僕の両目を覆って言った。
「万が一、あの女がまた懲りずに露出度の高い服を着て来る可能性もあるから、念の為あの女の姿を私が確認するまでウェンの目は私が覆っておいてあげるね!」
「そ、そんなことしなくても大丈夫だと思うし、そうじゃなかったとしてもわざわざシャルが僕の目を覆わなくても僕が目を瞑れば────」
「何かの拍子にウェンが目を開けちゃうかもしれないから、私がこうしておいた方が確実なの!それに、ウェンだってあの女の格好一瞬は見たでしょ?それを思い出したらわかると思うけど、あの女の服は一瞬でも視界に入れない方が良いんだから!」
ローズさんの格好を思い出す……露出度の高い服だったことは覚えている。
「……確か────」
僕が、僕の覚えているローズさんの格好を口にすることでシャルに照合してもらおうと考えた────けど、その直後にシャルが言った。
「あ〜!!待って!!嘘、嘘!!思い出さないで!あんな姿思い出さないで!!」
大きな声でそう言ったシャルは、続けて僕の僕の目を覆っている手を使ってそのまま僕の頭を揺らしてきた。
「ま、待ってシャル!思い出さないよ、思い出さないから頭揺らさないで!!」
僕がそう伝えると、シャルは僕の頭を揺らすのをやめてくれた。
そして、シャルは落ち着いた声音で言う。
「ご、ごめん、つい……」
「う、ううん、大丈夫だよ」
僕たちがそんなやり取りをしていると────さっきと同じ、強力な魔力反応を感じた。
この魔力反応は、ローズさんの魔力反応だ。
そして、その魔力反応を感じると同時に、今度はローズさんの声が聞こえてきた。
「ご所望通り、普通の服というものに着替えて参りましたが、いかがでしょうか?シャルさん」
「……」
ローズさんにそう聞かれたシャルは、少しの間沈黙した。
そして────
「合格」
「ありがとうございます」
そんなやり取りをすると、シャルは僕の目を覆うのをやめた。
それにより、僕の視界にはローズさんの姿が映る。
……黒の長袖に白と黒で模様の作られている膝下までのスカート。
僕がローズさんの姿を見たのは一瞬だったけど、さっきとは比べ物にならないほど露出度が低く清楚な服で、少し高そうな服だけど露出度という点で言えば普通の服と言えそうで、ローズさんにとても似合っていた……僕がそんなことを思っていると、ローズさんが言った。
「では、シャルさん……これで話し合いをしていただける、ということでよろしいのですか?」
「うん、話し合いしてあげる」
「ありがとうございます……では────」
ローズさんは笑顔で微笑んでそう言ったあと────突然、僕に距離を縮めてきて言った。
「私はまだ、ほとんどウェン様と言葉を交わせておりませんので……ウェン様、今から少しの間だけ私と二人で言葉を交わしませんか?」
「はぁ……!?」
そのローズさんの言葉を聞いたシャルは、すぐに僕とローズさんの間に割って入ると、怒った様子で言った。
「私は、あくまでも戦闘以外での解決方法っていうことで話し合いを受け入れてあげただけで、露出の多い服を着てた女なんかとウェンのことを二人で話させるとは一言も言ってないんだけど!」
「落ち着いてシャル、せっかくローズさんが清楚な感じの服を着て、露出度の低い綺麗な姿で戻って来てくれたんだから、そんなに怒ってばかりだとローズさんに申し訳ないよ」
「だけど────」
「ウェン様……今、私のことを、綺麗だと仰ってくださいましたか?」
シャルが何かを言いかけた時、シャルを挟んでそのシャルのすぐ前に居るローズさんがそう聞いてきた。
「え……?は、はい、言いましたけど」
どうしてローズさんがそのことにそんなに引っ掛かりを覚えているのかがわからずに僕がそう言うと、ローズさんは改めて聞いてきた。
「……魔人の私のことを、人間であるウェン様が、ですか?」
ローズさんは、自らが魔人であることを示すように強力な魔力を放った。
でも────僕の答えは変わらない。
「はい、僕は……ローズさんのことを、綺麗な方だと思います」
僕が、その魔力に気圧されず、ローズさんの目を真っ直ぐ見てそう答えると────ローズさんは、目を見開き強力な魔力を放つのをやめると、少しの間僕のことを静かに見つめていた。
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