第6話 存在

 どんな……存在?

 僕は、突然シャルから投げかけられた問いに少し困惑する。

 存在って……僕とシャルが二人で話すことにしてはかなり言葉が堅いような気がするけど、ひとまずここは存在という言葉そのままの意味で受け取ろう。

 僕にとってシャルがどんな存在なのか……シャルは僕が本当に小さな時からの幼馴染で、僕が魔物に狙われ出してからもずっと一緒に居てくれた────そんな僕が、シャルにとってどんな存在なのか。

 答えは一つしかない。


「シャルは、僕にとって掛け替えの無い存在だよ」

「でも、さっき他の女の子と遊ぼうとしてたよね?」


 遊ぶ……そうだ、シャルはそういえばさっきも遊ぶと言っていたけど、僕はそもそもあの人と遊ぼうとしていたんじゃない。

 僕は、そのことをしっかりとシャルに説明する。


「違うよ、お礼をしてくれるって言うから宿に誘われてただけで────」


 説明────しようとしたけど、シャルはそれを遮るようにして大きな声で言った。


「私!宴会になったからには楽しまないととは言ったけど、そっち方面で楽しんで良いなんて言ってないんだけど!掛け替えの無い存在なんて言ってるけど、ちょっと大人びた女の人が出てきたらその人の方に行っちゃうぐらいの存在ってことなんでしょ!?」


 そっち方面……?

 大人びた女の人……?

 その人の方に行く……?

 あの人が大人びた雰囲気だったことは確かだけど、それ以外は全く理解できないし、あの人が大人びた雰囲気だったというのは理解できてもそれが今のこの話にどう繋がってくるのかが全く見えない。

 僕は、疑問の多さに少し動揺を覚えながら言った。


「ま、待ってよシャル、話が見えない、どういうこと?」

「とぼけても無駄だから!あんな色気のある女の人から宿っていう単語が出て、ウェンがそこに誘われてたってことは……そういうことなんでしょ!?しかも!ウェンが今もそれを全く嫌そうにしてないことも含めて考えたら……もう!どうしてあんな初めましての相手と宿に行こうとするの!?私には、全然そんな気見せてくれないのに……」


 シャルは、最後に小さく何かを呟いた……その言葉は聞こえなかったけど、それ以外の大声で言っていた部分は全て聞こえていたため────僕は、ようやくシャルが誤解していることに気が付いた。

 そして、それに気が付いてしまうと、僕はどこか恥ずかしくなってしまい、もはやそれを否定することすらも顔に熱を帯びそうなほど恥ずかしいけど、それでも否定しないといけないことだから僕は重たい口を開いて言った。


「シャルは誤解してるよ、僕はそんなに軽薄な行動を取ったりしないよ」

「私だってそう信じたかったけど────」

「確かに、シャルの言う通り女の人から宿に誘われたってなるとそう考えるのが自然なことなのかもしれないけど、直接あの人と話した僕の意見を言うなら、あの人はそういう感じの雰囲気じゃなかったんだ……あの人の思惑がどうだったとしても、少なくとも僕はそういうつもりじゃなかった……信じて欲しい」


 僕がそうシャルに伝えると、シャルは少し沈黙してから言った。


「……ウェンにとって、私は特別?」

「うん、特別だよ」

「他の男の子にも女の子にも負けないぐらい?」

「当たり前だよ、僕にとって一番身近な存在で、一番大切なのはシャルだけだよ」

「────それなら信じてあげる!なんて、ウェンが嘘を言ってないことぐらいこんなこと聞かなくてもわかったんだけどね!」


 そう言うと、シャルは嬉しそうに笑った。

 そして、続けて言う。


「逆にウェンが嘘を吐いてもすぐにわかるからね」

「シャルに嘘なんて吐かないよ」

「えへへ、ありがと」


 その後、僕とシャルは宴会の場に戻って宴会を楽しんだ。



◇魔王軍side◇

 先ほどのウェンとシャルの会話を聞いていた魔王は────とても憤慨していた。


「人間さえ居なければ、今ウェンくんに特別って言ってもらえてる存在は私のはずだったのに……!!」

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