第50話 和平
「えっと……シャル、ネルミアーラさん、改めて今から今後の僕たちの生活について大事な話をするんだけど……いいかな?」
僕が、僕の右腕と左腕をそれぞれ抱きしめているシャルとネルミアーラさんにそう言うと、僕の左腕を抱きしめているシャルがさらに僕の左腕を自らの体に抱き寄せるようにして言った。
「うん、進めて大丈夫だよ、ウェン」
シャルがそう言うと、今度は続けてネルミアーラさんも僕の右腕を自らの体の方に抱き寄せるようにして言う。
「私も大丈夫よ、ウェンくん」
……僕の腕が二人に抱きしめられて、二人の体に抱き寄せられていることで色々と感触のようなものを感じてしまうけど、今はそんなことを考えている場合では無いため、僕はどうにか気にしないことにして話を進めることにした。
「じゃあ、話を進めますけど……早速、シャルとネルミアーラさん、それにローズさんも、今後僕とシャルとネルミアーラさんが一緒に生活をするうえで、まず場所はどこにしたいかなどの良い案はありませんか?」
僕がそう聞くと、僕の腕を抱きしめている二人は同時に言った。
「私は、ウェンと一緒だったらどこでもいいよ」
「私は、ウェンくんと一緒ならどこでもいいわ」
「そ、それは、僕もそう思うけど、それだと話が────」
僕がそう言いかけた時、ローズさんが口を開いて言った。
「でしたら、いっそのことお三方用の家を新しく作られてはいかがですか?」
「え……!?」
僕たち用の家を作る……!?
「そ、そんなこと────」
「良い案ね、ローズ、私はそれで良いわ」
「え……?ネ、ネルミアーラさん……?」
「私もそれで良いよ」
「シャ、シャル!?」
ネルミアーラさんとシャルは、それぞれ僕の腕を楽しそうに抱きしめながらそう答えた────けど。
「家なんて、どうやって作れば……僕たちが魔法で作るにしても、それは本来建築についての魔法を勉強している人がするようなことで、建築に関する知識がそこまで無い人がやったら一体どれだけの時間がかかるかわかりません」
僕がローズさんの方を向いてそう聞くと、ローズさんは微笑みながら言った。
「おや、ウェン様……お忘れですか?ここは魔王城、そして今ウェン様の腕を抱きしめていらっしゃる方は、魔王軍の長である魔王様なのですよ?」
ローズさんがそう言うと、ネルミアーラさんは僕に顔を近づけて来て言った。
「そうよ、ウェンくん……私が魔王軍を動かして、私たちの家をすぐにでも作らせるわ」
「え、え!?そ、そんな僕たちの私情みたいなもので、勝手に魔王軍の皆さんに働いていただいてしまっても良いんですか?」
「当然よ、魔王軍は私の意志で動くことこそが仕事なのだから」
ネルミアーラさんがそう言うと、続けてシャルも僕に顔を近づけて来て言った。
「私も、仮にも公爵家だから、一つの家を作ってもらうのに協力してもらうぐらいだったら人集められると思うよ?」
確かに、シャルの公爵家としての力を使えばそれもできるかもしれない。
でも、僕はあることを思い首を横に振って言った。
「ううん、もし魔王軍の人たちにも家を作ってもらうんだとしたら、人を呼んで協力してもらうわけにはいかないよ、人類と魔王軍は敵対関係にあるんだし」
僕がそう言うと、間を空けずにローズさんが言った。
「いいえ、ウェン様が魔王様との記憶を取り戻され、魔王様と共に幸せになることをお決めになられたのでしたら、もはや魔王様が人類を敵対視する理由は無くなるということになるかと思われます……そして、魔王様が人類を敵対視しなくなるということは、魔王軍も人類を敵対視することはしなくなるということです」
「……え?それって、つまり……人類と魔王軍が和平を結ぶということですか?」
僕がそう聞くとローズさんは頷いた……僕は、続けて僕の腕を抱きしめているネルミアーラさんの方を見る。
すると、ネルミアーラさんは少し間を空けてから答えてくれた。
「……私たちの言い分も聞かずにウェンくんの記憶を封印した人間たちのことは今でも許せないけれど、そんな人間たちのことを憎んでこれ以上人間たちと敵対することなんてウェンくんは望まないでしょうから、私は今ローズが言った通りもう人間たちと争うことはやめるわ」
魔王軍が、人類との争いをやめる……?
今まで様々な要因で、長い間人類と魔王軍は争ってきたけど、それがこれから先には無くなる。
ローズさんやネルミアーラさんはさりげなく言ったけど────もしかして僕は今、今後の世界を左右するほどのとんでもないことを聞いてしまったのかもしれない……でも、それはそれとして────
「ネルミアーラさん!それにシャルも!その……色々と気になるから、僕の腕を抱きしめるのを一度やめてくれないかな?」
「ダメだよ、これからはずっとこうしてるんだから」
「ようやくウェンくんに触れられるようになったんだもの、しばらくはこうさせてもらうわよ」
「しばらく!?それは────」
その後、僕たちは腕を抱きしめることについて軽く言い合った……とても世界を左右する言葉を聞いた直後のこととは思えない内容、抱きしめる抱きしめないの話で軽く言い合いを行った……けど、結局僕ではどうすることもできず、しばらくの間二人に好きにしてもらうということで話が落ち着いた。
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