第51話 二人きり

「……はぁ」


 お風呂から上がった僕は、脱衣所でようやく一人になれて心を落ち着けていた。

 シャルやネルミアーラさんと一緒に居る時間はとても幸せでずっと続いて欲しいと思うけど、タオルを一枚しか体に巻いていないような状態で長い間抱きしめられたりすると、色々と刺激が強くて困ってしまう。

 まだ腕に胸の感触のようなものが残って────


「っ……!」


 僕は、すぐに首を横に振ってその考え事振り払った。

 そして、服を着替えた僕が脱衣所の前へ出てシャル、ネルミアーラさん、ローズさんの三人が服を着終えるのを待っていると────少ししてから、シャルとネルミアーラさんが同時に脱衣所から出てくると、同時に僕のことを抱きしめてきた。


「ネルミアーラ!私の方がウェンのこと抱きしめたの速かったから、ウェンのこと抱きしめるの私に譲って!」

「いいえ、私の方がウェンくんのことを抱きしめるのが速かったから、あなたが私にウェンくんのことを抱きしめるのを譲るべきよ」


 さっきお風呂から上がったのは、そろそろのぼせてしまうかもしれないということでお風呂から上がって、それで一度二人も落ち着くかなと思ったけど、どうやら逆に不完全燃焼といった感じの状態になってしまっているようだ。

 僕がそんなことを考えていると、シャルが僕の目を見て聞いてきた。


「ねぇウェン、私の方が速かったよね?」


 そして、次にネルミアーラさんも僕の目を見て聞いてくる。


「ウェンくん、私の方が速かったわよね?」

「ど、どちらも同じぐらいに速かったと思いますよ」

「ウェン!」

「ウェンくん!」


 本当に二人とも同じぐらいの速度だったと思うけど、二人の心情としてはしっかりと白と黒をつけて欲しいということみたいだ。

 でも、実際に二人はほとんど同じぐらいの速さだったのに、どうすればそれに対して白黒をつけられ────


「お三方とも、どこか別の場所へお移りにはなられないのですか?」


 僕がこの状況にどう答えを出すべきか悩んでいると、脱衣所から出てきたローズさんの声が聞こえてきた。

 良かった……ローズさんが来てくれたことによって、ひとまず話をその場所の別に移動するという話に変えることが────と思ったけど、僕はその脱衣所から出てきたローズさんの肩や胸元、脚までもがかなり露出された服を見て、思わず思考を止めた。

 そんな僕の隣で、つい先ほどまでどちらが僕のことを抱きしめるのが速かったのかを言い争っていたシャルとネルミアーラさんが、そんなローズさんのことを見ると、シャルは僕の目を覆ってネルミアーラさんがローズさんに言った。


「ローズ!あなたのその服装が、一瞬だけだったとしてもウェンくんの視界に映ってしまったじゃない!」

「お風呂という服を着ない場所から出てきた直後に気にするほどのことでしょうか?」

「気にするに決まっているでしょう!あなたのその格好は、ウェンくんの目に毒なのよ!!」

「またそのようなことを……魔王様、このぐらいの服────」


 その後、ネルミアーラさんとローズさんが言い争っていると、シャルが僕に小さな声で「行こ……!」と声をかけてくると、僕の腕を引いて魔王城の中を走り始めた。

 僕は、シャルがどこに行こうとしているのかわからなかったけど、シャルは迷いなく足を進めていたため、ひとまずそのままシャルに合わせて走っていると────シャルは、魔王城の廊下にあった一つのドアの前で足を止めた。

 そして、ドアを開けて中に入ると、そこにはテーブルとソファがあった……普段は何かの話をするのに使われている部屋なのかな。

 そんなことを思いながらも、僕はシャルと隣り合わせにそのソファに腰かけた。


「……」

「……」


 シャルと二人きり────それも、お互いに気持ちを通じ合わせてから二人きりになるのは初めてだったため、僕たちの間には今まで二人で居た時とは全く違う雰囲気が漂っていた。

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