第52話 したいこと

 僕たち二人の間に今までとは違う雰囲気が漂っている中、最初に口を開いたのはシャルだった。


「ウェ、ウェン、これまでずっと二人だったはずなのに、二人きりになるのがなんだかとても久しぶりに感じられるね」

「そうだね」


 シャルとはこの旅の間────ううん、旅の間だけじゃなくて、僕が小さなころからずっと一緒に育ってきた。

 それなのに、少し二人きりにならなかっただけでとても久しぶりに感じる。


「朝とかは短い間だけど二人で話してたはずなのに、こんなにもウェンと話すのが久しぶりに感じられるのは、やっぱり今日色々とあったからかな」

「そうだと思うよ……本当に、色々とあったね」

「うん────私たちも、色々と……変わったね」


 シャルは僕の手にその色白でしなやかな手を重ねながらそう言った。

 僕は、そんなシャルに対して頷いて言う。


「うん……本当に、ずっと気付いてあげられなくてごめんね」

「さっきも言ったけど、それは本当に良いの、今こうしてウェンと気持ちを通わせることができてるから」


 シャルは嬉しそうな、そして同時にとても優しい表情でそう言った。


「シャル……」

「……ねぇ、ウェン、これからはもうウェンが魔物に狙われることは無くなって、ようやく本当に平和に暮らせるようになるんだよね」

「シャルには本当に、今までとても長い間お世話になったね……こんな僕だけど、これからもよろしくね、シャル」

「っ……!当たり前じゃん!」


 大きな声でそう言うと、シャルは僕のことを抱きしめてきた。

 僕も、それに応えるようにシャルのことを抱きしめる。


「ウェン……今までも、これからも、ずっと一緒だよ」

「うん……」


 その後、少しの間抱きしめ合っていると、シャルが頬を赤く染めて僕のことを抱きしめる力を少し強めて言った。


「私……こうしてウェンと抱きしめ合ってるの、大好き……ウェンと愛し合ってるって感じがして」

「僕もだよ……シャルがしたくなったら、いつでも言ってね」

「えへへ、じゃあずっとこのままかも」

「そ、それは困るね」


 そんなやり取りをしながら抱きしめ合っていると、少しの間沈黙が生まれた。

 そして、僕とシャルは抱きしめ合ったまま顔を向かい合わせると、シャルが先ほどよりも頬を赤く染めて口を開いて言った。


「ウェン……私、ウェンとしたいことがあるの……小さな時からずっと、ずっといつかしたいなって思ってたことの一つ」

「シャルがしたいことならなんでもいいよ、何?」


 僕がそう聞くと、シャルは恥ずかしそうにしながらも僕の目を真っ直ぐ見ながらどこか甘い声音で言った。


「……キス」

「っ……!」


 その言葉を聞いた瞬間、僕も一気に恥ずかしさを感じて、自分の顔を確認することはできないから顔が赤くなっているかどうかはわからなかったけど、少なくとも自分の顔がとても熱くなっていることには気が付いた。


「シャ、シャル……本当に、するの?」

「もちろん、ウェンが嫌って言うならしないよ?でも……私はしたいな」


 ……これがまだどういった関係性にも発展していなくて、今まで通りの幼馴染という関係のままだったなら、僕はとても驚いて今からキスをするなんていうことは選べなかっただろう。

 だけど、今ここに居る僕とシャルは、もうお互いに好きという心を通じ合わせている────だから、シャルのこの願いを断る理由が無い……ううん、断る理由が無いんじゃなくて。


「僕も……したいな」

「っ……!……じゃあ、しよ?」

「……うん」


 シャルがそう言うと、僕たちは互いに少しずつ顔を近づけ合う。

 心臓の鼓動音がとてもうるさく聞こえるけど、シャルのことを見ていたらとても気落ちが落ち着く。

 あと少し顔を動かせばシャルと唇が重な────


「やっと見つけ────っ!な、何をしているの!?」


 るタイミングで、ネルミアーラさんがこの部屋へ入って来た。

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