第11話 安心感

◇ウェンside◇

 洞窟に入ってしばらく経つと、僕は僕の背中にしがみついて来ているシャルに言った。


「そろそろ昆虫系の魔物は出なくなると思うよ」

「そ、そうだよね」

「うん、だからもう僕にしがみつかなくても平気じゃ無いかな?」


 僕がそう言うも、シャルは僕から離れない。


「……シャル?」


 そんなシャルのことを疑問に思った僕がシャルの名前を呼ぶと、シャルは僕にしがみついたまま言った。


「……昆虫系の魔物が出ないにしても、魔物の多い洞窟だとどんなことが起きるかわからないから、やっぱり触れておかないと何かあった時にはぐれちゃいそうで不安なんだよね」


 ……確かに、洞窟には様々な種類の魔物が存在していて、中には罠を作ったりしてくる魔物も居る。

 そうなった時に、二人で一緒なら大体どんな状況になったとしても対応できる自信はあるけど、一人でとなるとやっぱり危険度は増すだろう……でも。


「シャルの言いたいことはわかるけど、このまま僕の背中にしがみつきながら洞窟の先に進むのは逆に危ないんじゃ無いかな?例えば、後ろから急に魔物が現れた時の対処が難しくなると思うよ」

「うん……だから────」


 シャルは、僕の背中にしがみつくのをやめると、僕の隣に来て僕の方へ手を差し伸べて頬を赤く染めながら言った。


「私と手……繋がない?」

「……え?」


 僕とシャルが、手を繋ぐ……?

 僕が困惑していると、シャルは僕の方に手を差し伸べたまま慌てた様子で言った。


「べ、別に何か変な意図があるわけじゃなくて、ただ、そうした方が危険が少ないかなって思っただけだから!手を繋いでるだけだったら、手を繋いでない方の手で魔法は使えるし、体だって自由に動かせるでしょ?加えて、仮に何かの事態で離れ離れになりそうになったとしても、手さえ繋いでおけば私たちが離れることは絶対に無い……だから!これはあくまでもちゃんと状況にあった最適な行動を選んでるだけで、私がそうしたいとか私の感情とかそういうのは関係ないから!!」


 どうしてそんなにも最後の部分を強調したのかはわからないけど、シャルの言う通りこの状況では手を繋ぐのが一番良い選択かもしれない。


「わかったよ、シャル……僕と手を繋ごう」


 僕がそう言うと、シャルは嬉しそうな声で言う。


「っ……!本当に!?」

「うん」


 そして────僕は今言った通りに、シャルに差し伸べられていた手を握り、シャルと手を繋いだ。

 すると、シャルは頬を赤く染めて言った。


「今までずっと一緒に居たけど、私とウェンがこうして手を繋ぐのは……初めてだよね」

「うん、今まで手を繋ぐ機会なんて無かったからね」

「……ウェンの手、私よりも大きくて、男の子って感じがする」

「そう?」


 僕がそう聞くと、シャルは頷いて言った。


「うん……幼馴染としてのウェンだけじゃなくて、もっと……もっと違う、ウェンも、見たいな」


 シャルは、僕の手を握る力を強めて何かを言った────みたいだけど。

 シャルの声が突然小さくなったから僕はシャルが何を言ったのか聞き取れなかったため、そのことをシャルに聞いてみることにした。


「シャル……?何か言った?」


 僕がそう聞くと、シャルは首を横に振って恥ずかしそうにしながら言った。


「う、ううん!なんでもない!それより、そろそろ先に進もっか!」

「そうだね」


 そして、僕とシャルは手を繋いだまま一緒に洞窟の奥へ足を進め始めた。

 ……いつ魔物が出てもおかしくない洞窟の中なのに、シャルと手を繋いで歩いていると、なんだかとても安心感がある。

 僕は、そのことをどこか不思議に思いながらもそのままシャルと一緒に洞窟の奥の方へと足を進めた。



◇魔王軍side◇

「あ、あの女……私のウェンくんと、手を……あんな女と手を繋いだことなんて忘れさせてあげるためにも、私が早くウェンくんと手を繋いであげないと……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る