第12話 側近

「まぁまぁ、手を繋いだ程度で腹を立てていては、今後が持たないかもしれませんよ」


 ウェンとシャルが手を握ったことに対して怒りを覚えている魔王のことを見て赤髪の側近がそう伝えると、魔王は苛立ちを感じながら言った。


「どういう意味?」


 魔王がそう聞き返すも、赤髪の側近はその空気感とは全く違い普段通りマイペースに話す。


「どういう、と申されても、そういった意味としか……活気の良い若い男女二人の長旅ですから、手を繋ぐ所ではなくその先のことをする可能性だって────」


 旅が続けば手を繋ぐだけでなくそれ以上のことをする可能性もあると伝えようとした赤髪の側近の言葉を遮るように、魔王は大きな声で言った。


「そんなことさせないわ!大体、長旅になんてさせるつもりは無いわよ!そのためにさっきあなたにあの指示を出したんでしょう?」


 大きな声を出して怒った様子ではいるが、魔王はしっかりと冷静にそう言った。

 すると、赤髪の側近は思い出したように言った。


「そうでしたね……しかし残念です、魔王様がここまで感情的になられることは他のことでは滅多に無いですから、あのお二人の旅を楽しむと同時に魔王様の感情の起伏も楽しもうと思っていたのですが……それも、本日で終わりになるのかもしれないのですね」


 そんな赤髪の側近の思っていることを聞いて、魔王は呆れたように溜息を吐いてから言った。


「そんなことを考えていたのね……でも、そんなあなたにとっては良くない話かもしれないけれど、ウェンくんがこの魔王城に来たらあなたは緊急時以外に私のところへ来てはダメよ」


 魔王の側近である自分が緊急時以外は魔王の元へ来てはいけないと言われたことに少し驚きながらも、特にそこまで感情を揺るがすことはなくその理由を推察して言った。


「まぁ、もしかして先ほどの私の発言でお怒りになられたのですか?」

「それも少しはあるけれど、私はウェンくんがこの魔王城に来たならずっとウェンくんと一緒に過ごすつもりで居るのよ」

「そのことは、魔王様のお心を理解していれば容易に想像ができることであり、事実私も承知していますが、それと私が魔王様のところへ行ってはいけないというのはどう繋がるのでしょうか?」


 二人でイチャイチャしたいから第三者が自分のところへ来てウェンとの雰囲気を壊されたくない、と言われれば赤髪の側近も納得できるが、魔王は『あなたは緊急時以外に私のところへ来てはダメよ』と言った。

 あなたは、ということは赤髪の側近だけということだ。

 そのことに疑問を抱いていると、魔王は言った。


「このことは前にも言ったことと繋がるのだけれど、あなたは容姿からして刺激的なのよ」

「そうでしょうか……?」


 前にも言われたことではあるが、再度身に覚えのないことを言われた赤髪の側近が困惑していると、魔王は大きな声で言った。


「そうよ!胸の大半は露出させていて肩も空いてて、足も出してるなんて……そんな格好で私のところ、つまりウェンくんのところに来られては困るわ!」

「そうですか……でしたら、ウェン様が来てからは服を露出度の低いものにさせていただきます」

「……それでも不安ね、あなたは隙を見てウェンくんに何かしそうだわ」

「魔王様の見初められた男性に手を出したりなどしませんよ」


 実際、今のところ赤髪の側近は今まで生きてきた中でそこまで人間に魅力を感じたことが無いため、今のところは手を出すつもりは無かった。


「それなら良いけれど……それより、ウェンくんの方を見ていたら、そろそろだと思うわ」

「わかりました……では、どうなるのか見届けさせていただきましょうか」


 二人がそんな会話をした後────魔王の策によって、ウェンとシャルは予想外の事態に見舞われることとなった。

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