第13話 予想外
「結構歩いてきたね……ウェン、疲れてない?」
「僕は大丈夫だよ……シャルの方こそ大丈夫?」
「私は昆虫系の魔物さえ出なかったら大丈夫だから!それに、もう昆虫系の魔物が出る心配もないから、ここからはどんな敵が来ても心配ないよ!」
昆虫系の魔物が現れた時のシャルのことを思い出すとこのシャルの発言も不安になるかもしれないけど、実際ここに来るまでの間にゴーレムやトロールといった一般的に強力な魔物が出てきたけど、シャルはそれらをすぐに倒していたため、本当に昆虫系の魔物以外なら心配は要らないだろう。
僕がそんなことを思っていると、シャルが言った。
「それにしても、洞窟なんていう魔物の巣窟に来たら、てっきりウェンのところに大量の魔物がやって来て、それを私とウェンの二人で盛大に返り討ちにするみたいなこと予測してたけど……ウェン、全然狙われないね」
「……そうだね」
もし、僕が魔力の量や質によって魔物から狙われるということであるならば、この洞窟で魔物から狙われないはずがなく、むしろ狙われていないとおかしい。
つまり、僕が魔物に狙われている理由は、やはり魔力がどうこうだからということでは無い……とすると。
「やっぱり、誰かの何かしらの意図によって僕が狙われてる可能性が高いと思う」
「誰かって言っても、魔物をこんなに自由自在に動かせるってなると、かなり限られてくるよね?それこそ魔王軍の幹部とか、側近とか……魔王自身とか」
「魔王……」
当然、僕は出会ったこともないけど、もし僕が魔王に狙われているというのであれば本当に恐ろしい話だ。
魔王は、約十年ほど前に新しい魔王になったらしく、その魔王になるまでは落ち着いていたらしい────けど、今の魔王というのは人間に対してとても攻撃的だという話で、少しでも自分や魔王軍にとって目障りなことをしてきた人間のことは容赦無く滅ぼしてしまうということだ。
魔王ということもあって、噂に尾ひれがついている可能性は否定できないけど、少なくとも魔王に狙われていて良いことは無いはずだ。
「あんまり考えたくない話だね」
僕が呟くと、シャルが僕のことを気遣うように慌てて言った。
「だ、大丈夫だよ!魔王なんかかがやって来たとしても、私がすぐに倒してあげるから!!」
「シャル……ありがとう」
その後、僕とシャルは長年幼馴染として一緒に過ごした絆を感じながらも、先に進んだ。
もう僕が無差別に魔物に狙われるわけじゃ無いということはわかったけど、せっかくならもう少し先に進んで洞窟でしか取れない特別な花や鉱石を採取しておきたいと考えたからだ。
────そして、僕たちが洞窟の中を歩いて進んでいると、予想外の事態が起きた。
「う、嘘!?どうして!?」
シャルは、驚いた様子でそう大きな声を上げた。
僕たちの目の前に、とても大量な昆虫系の魔物の群れが現れた……僕と手を繋いでいるシャルは、僕の隣でとても動揺している。
こんなに洞窟の奥まで歩いてきたのに、昆虫系の魔物が生息しているわけがない……それなのに、こんなにも大量に……
違う、その前にまずはシャルのことを落ち着かせないと!
「シャル、一度落ちつい────」
僕は、シャルにそう言おうとした時、先ほどまでは見かけなかったスパイダーが居るのが見えた。
スパイダーは、糸を吐いてその相手のことを巻き付け拘束してしまうことができる魔物で────その糸は、まさにシャルに向けて吐き出されていた。
いつものシャルだったら対処できているはずだけど、昆虫系の魔物がたくさん出て来たことによってそのいつものシャルでは無くなっているため、シャルはきっと対処できない……こうなったら。
「シャル!」
「……え?」
僕は、シャルと繋いでいた手を離すと、僕は昆虫系の魔物の群れの方へ一発だけ炎魔法を放つと、シャルのことを昆虫系の魔物の群れとは反対方向に突き飛ばした。
「ウェ、ウェン?」
「シャルは、とにかく安全なところへ────」
僕は、そう言いかけたところで口を含む体全身をスパイダーの糸で巻かれてしまった。
……かと思えば、突然眠気が襲ってきた。
睡眠系の魔法……スパイダーはそんなの持っていないはずだから、きっと他の魔物の魔法だ。
……連携が取れすぎている、もしかしたら本当に、僕のことを狙っているのは────
「ウェン!?ウェン!!」
意識が遠のいていく中で、シャルの僕の名前を呼ぶ声だけが頭の中に響いた。
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