第14話 危険

◇魔王軍side◇

「ようやく……!ようやく!十年の時を経て、ようやくウェンくんが私のところに来るのね!」


 昆虫系の魔物によってシャルの動揺を引き出し、最終的にはウェンのことを拘束するという作戦が上手く行ったことを見て、魔王が大きな声で言った。


「そうですね……糸によって体を巻きつけられている状態で睡眠状態にまでさせられていれば、ウェン様でも対処は不可能でしょう、単純な方法でしたが今回は単純な方法こそがウェン様やシャルさんにとっては厄介なこととなりましたね」

「はぁ……ウェンくんはこの魔王城で目を覚ましたらきっと不安な気持ちでいっぱいになると思うけれど、その時には私がウェンくんに危害なんて加えるつもりは無いと伝えてあげたいわ……いえ、危害を加えるどころか、私と魔王軍のできる最大限のおもてなしをして、私のこの愛も……あ〜!楽しみだわ〜!早くウェンくんがここまで来ないかしら!」


 魔王は頬を赤く染めながら、ウェンが自らの目の前に来た時のことを想像してとても良い気分となっていた。

 そして、その良い気分のまま続けて言う。


「空間転移の魔物は洞窟前に待機させているわね?」


 魔王にそう聞かれた赤髪の側近は、頷いて言う。


「抜かりなく、あとは魔物達が洞窟前までウェン様のことを連れて来られれば、目的は達成です」

「だったらもう目的は達成したも同然だわ!だって────」


 魔王は、ウェンに突き飛ばされたまま立ち尽くしているシャルのことを見て言った。


「あの女は昆虫系の魔物が苦手で、せっかくウェンくんが自分が囮になることで逃げられるチャンスをくれたのに、動いていないもの」

「……どうして動かないのか、意図はわかりませんが────仮にそれが昆虫系の魔物に対する恐怖によるものであれば、ウェン様は魔王城へ来ることとなりますね」

「えぇ!ウェンくん……ウェンくんが私の元へ来たらどうしようかしら?とりあえず、警戒を解くところから始めないといけないわね……警戒を解くためには、やっぱり話し合いをするのが一番なのかしら?それとも反対に、積極的に距離を縮めちゃうとか、他にも────」


 その後も、魔王の想像は続いた。

 十年間ウェンと会えなかったという時間を考えれば、どれだけウェンと会うときの想像をしてもし足りない。

 ────が、今度はウェンやシャルではなく、魔王や赤髪の側近にとって予想外の事態が起きることとなった。



◇シャルside◇

「……」


 スパイダーの糸での攻撃なんて、普段の私なら目を閉じてたって避けられた。

 だけど……私が昆虫系の魔物に気を取られてるせいで、ウェンが私のことを庇って糸で体を巻かれて、身動きが取れなくされて……でも、そのギリギリまで私のことを考えてくれていた優しいウェン────そんなウェンが今、スパイダーの糸で体を巻かれて、睡眠魔法をかけられた。

 私のせいで、ウェンが危険な目に遭ってる……ウェンが、ウェンが────危険?

 ……今まで、こんなこと無かった。

 私とウェンが居て、危険になることなんて今まで無かった。

 だけど、今はそれが起きてる……私と────この魔物達のせいで。

 ウェンが、危険……優しくて、笑顔が素敵で、かっこよくて可愛いウェンが……居なくなる?

 ────そんなこと、絶対にさせない。

 私は、この魔物達が昆虫系の魔物であるということが一気にどうでも良く感じると、その魔物達に近づく。

 すると、昆虫系の魔物達が私に襲いかかってきた。


「邪魔」


 目を暗くして冷たい声でそう言うと、私はウェンにだけ当たらないように、魔物全てを炎魔法で焼き払った。

 それらを無感情に見届けた私は、糸で体を巻かれているウェンの糸の部分だけを切ると、眠っているウェンのことを抱きしめて言った。


「ウェン、私のせいでこんなことになっちゃってごめんね……でも、もう大丈夫だよ、魔物なんて怖く無いから、これからもずっと私と一緒に居ようね」


 それから、私はしばらくの間ウェンのことを愛おしく思いながら優しく抱きしめた。

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