第3話 二人一部屋
◇ウェンside◇
「二人一部屋……シャルはどう思う?」
「え……!?わ、私!?」
「うん、こういうのは女の子の方の意見を尊重した方が良いかなって」
当然、僕にも意見はあるけど、やっぱり僕が先に言うよりもシャルが先に言う方がシャルも自分の意見を出しやすいはずだ。
僕がそういう考えもあってシャルにそう伝えると、シャルは少し間を空けてから頬を赤く染めて言った。
「お、女の子……ね、ねぇ、それって、ウェンは私のことを幼馴染じゃなくて、私のことを────」
シャルが何かを言いかけたところで、宿の大家さんが言う。
「二人とも、他の客が私に何か話に来るかもしれないから、少し避けててくれるかい?」
「ひゃ、ひゃいっ!すみません!!」
大家さんにそう指摘されると、シャルは驚いたよう高い声を上げた。
どうしてシャルがそんな反応を見せたのか僕にはわからなかったけど、僕は大家さんに言う。
「わかりました、では宿の前で話をさせていただきたいと思います……シャルもそれで良い?」
「う、うんっ!」
ということで、何故か恥ずかしそうにしているシャルと一緒に宿の前に出る。
宿の外に出ると、そろそろ夕暮れ時から夜と呼ばれる暗さへと移ってきていた。
できるだけ早く決めてしまったほうが良いかもしれない。
「シャル、さっき何か言おうとしてたみたいだけど、何を言おうとしてたの?」
話を再開させるべく僕がそう聞いてみると、シャルは慌てた様子で両手を振って言った。
「な、何でもないから気にしないで!」
「そうなの?」
「う、うん!」
シャルの様子は少し気になったけど、暗くなってきたから今は宿を決めるのが先決かもしれない。
僕がそう考えていると、シャルが続けて言った。
「えっと……宿をどうするか、だよね……二人一部屋の」
「うん」
僕が頷いてそう言うと、シャルが頬を赤く染めながら言った。
「私は……一緒でも良いよ、相手が他の男の子だったらともかく、ウェンが相手だもん……ウェンは?私と二人で同じ部屋になるの、嫌じゃない?」
「嫌なわけないよ、シャルとは幼馴染でずっと過ごしてきて、今では僕のためにこうして一緒に旅をしてくれてるんだから」
「ウェン……」
シャルは、嬉しそうな表情で口元を結んで僕の名前を呼んだ。
「じゃあ、宿の中に入ろう」
「うん……!」
シャルと二人一部屋……今まで幼馴染として一緒に生活してきたけど、同室で一晩を過ごすというのは今までにも無かったから少し緊張……と同時に楽しみな自分が居る。
もしかしたら、今までには見られなかったシャルの新しい一面を見ることができるかもしれない。
そう考えるとシャルとの宿生活も楽しそうだと思えてきた僕が、シャルと一緒に宿の中へ入ろうとした────その時、門の方から大きな声が聞こえてきた。
「敵襲!敵襲!!」
その声を聞いたシャルは声を上げる。
「て、敵襲!?このタイミングで!?」
確かに、僕たちがちょうど宿に入ろうとしたタイミングでなんて……でも、そのことに文句を言っても仕方が無い。
「シャル、声が聞こえてきた門の方に行ってみよう!」
「うん!」
そして、僕とシャルは一緒に走って門の方へ向かった。
◇魔王軍side◇
────数刻前。
ウェンとシャルのやり取りを見ていた魔王は、体を露出させた服を着ている赤髪の側近に言った。
「魔物を向かわせる準備はもう済んでいるわね?」
「はい、できています」
「なら向かわせなさい……ウェンくんが私以外の女と同室で一夜を迎えるようなことになるぐらいなら、街ごと滅ぼした方がマシよ」
そう言う魔王に対して、赤髪の側近は少し間を空けてから言った。
「あのシャルという女性に嫉妬ですか?」
「違うわ」
「嫉妬ですね」
「違うと言っているでしょう!?そんなことを言っている暇があるなら、早く魔物を向かわせなさい!」
赤髪の側近は小さく笑いながらも、魔王の言う通りにウェンとシャルの居る街へ魔物を向かわせた。
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