第14話 ヒュージラット討伐任務

 ティエスを連れ、街の北門から外に出たジェネラスが向かった先の農場地帯。


 この辺りは質の良い飼い葉が生える事から多くの酪農家や畜産農家がこの辺りに農場を構えている。


 しかし、城郭都市であるエレフセリアの防壁からは離れているため、農場地帯はエレフセリア領の兵士や傭兵が外敵から警戒防御を行っている。


「では、なぜ新たに依頼が」


 初めて訪れる農場地帯の概要をジェネラスから聞いていたティエスが首を傾げた。

 その疑問にジェネラスはやや斜め後方を歩くティエスに振り返ることなく両手を肩まで上げてすくめる。


「さてな。いつもなら領兵や農家と契約を結んでいるご同業らで事足りるはずなんだが。依頼書にはヒュージラットの複数討伐としか書かれていなかった。報酬は歩合制、狩れば狩るほど加算されていく。美味い話ではある」


「なにか問題が起こっているんでしょうか」


「繁殖期なら大量発生も考えられるが、今はそういう時期ではない。まあ行ってみれば分かるさ」


 そう言って、草原が広がるのどかな風景を眺めながら歩いて行くと、遠巻きに目的地の農場が見えてきた。

 しかし、のどかな風景に反してその農場の方向からは何やら黒煙が上がったり雷光が煌めいたりと、魔法による戦闘と思われる現象が確認出来た。


「妙だな。ヒュージラット相手に戦闘の規模が大き過ぎる」


「お父様。どうしますか?」


「せっかくの儲け話だ。乗らんわけにはいくまい。全く。こんな事ならプリメラも連れて来るべきだったな」


 そんな事をぼやきながら、ジェネラスが歩く速度を上げた。

 一人なら走り出していたのだろうが、ジェネラスはティエスを気遣ったのだ。

 それを察したのだろう。

 ティエスはジェネラスの後ろから「お父様。私のことは構いません。走りましょう」と、腰の剣の柄に手を掛けて言い放った。

 

 その言葉に、ジェネラスは肩越しに振り返り苦笑する。


「身体強化、いけるか?」


「行けます!」


「無理はするなよ? では、行くとしようか」


 そう言って、ジェネラスは身体強化魔法を発動すると一歩大きく踏み込んで腰を落とした。

 同じようにティエスも身体強化魔法を発動して少し腰を落とし、そして同時に走り出す。


 ただ走るより遥かに速く、二人は街道から外れた目的地までの踏み固められた土の道を駆けていく。


 そして、目的地が目の前に迫ってようやく二人はその異常事態に気が付いた。


 農場に比較的近い森林から影が溢れるように、ヒュージラットの群れが農場目掛けて迫っていたのだ。


「なんだ。この量は」


「あれがヒュージラット。こんなにたくさん」


「農場主を探す。ティエスは誰でもいい。状況を聞いてきてくれ」


「わかりました」


 農場の入り口付近で一旦別れ、ジェネラスは農場主がいるであろう、農業のための建築物(母屋や納屋)と自宅が一緒になったファームハウスへと向かい、ティエスは戦闘が行われている森の方へと向かっていった。


 ファームハウスへ向かったジェネラスは入り口の扉をノックするが、反応は無い。

 避難したのか、家畜を誘導しているのか、どちらにせよ、困ったなと玄関に背を向けたところで、ジェネラスの背後の扉が開いた。


「あ、あの」


「おお良かった。おられたか。依頼を受けて尋ねたのですが」


 言いながら、ジェネラスは依頼書を広げて扉から顔を出した小太りの初老の男性にそれを見せた。


「ずいぶんとのんびりしているな。ユニオンに依頼を出して待っている状況とは思えんが」


「そ、それが私にも何がなんだか分からんのです。依頼を出した時はいつもよりネズミどもが多く出現しているなあと、思うくらいだったんです。契約している傭兵たちと相談して、依頼を出して。それが今朝、急に森から泥水みたいにアイツらが。領兵たちに援軍は要請しましたが、到着はいつになるか」


「依頼は依頼。契約した以上、仕事はする。しかし、報酬は払えるのかね?」


「あ、ああ。いや、申し訳ない。正直分からない。あれだけいるのでは」


「確かにな。とはいえ、これを見過ごして信用を失えば今後の仕事に差し支える。報酬のことはあとで相談しよう。構わんかね?」


「農場を守っていただけるなら。お願いします」


「了解した。ジェネラス・サンティマンだ。よろしく頼む。もう一人連れがいる、ティエスという私の娘だ」


「ジェネラス⁉︎ あなたが【オーナー】世直しをしてるって傭兵か!」


「世直し?」


 農場の持ち主の男性の言葉に首を捻り、なんの事かと聞こうとしたその時、ジェネラスの元にティエスが森の方から駆け寄ってきた。


「お父様。話を聞いてきました」


「そうか。どうだった?」


 ティエスが聞いてきた情報はジェネラスが農場主から聞いた情報とほぼ同じだった。

 それ故に嘘がないことを確認出来たので、ジェネラスは農場主に先程の言葉の意味を聞くのも忘れて森の方へと向かおうとする。


「あの。差し出がましいのだが。その、娘さん左手が」


「お気遣いありがとうございます。ですが問題ありません。コレは兄さまがくれた力ですので」


 農場主の言葉に、左手の義手を握り可動するということを見せて教えるティエス。

 

「では行くとしよう。マズイと感じたら我々を置いて逃げてください」


「わ、分かった」


 農場主にそう言って、ジェネラスはファームハウスの扉を閉めるとコートを翻して森の方へ振り返り腰の剣を抜く。


 それを見て、ティエスも剣を抜くと、顔の前で義手の左手を握り祈るように目を閉じる。


「ティエス。最悪の場合、街に帰ってプリメラを呼んできてくれ」


「最悪の場合、ですか」


「まあ。この辺り一帯がネズミに食われたらだな。そうはさせんがね」


 言いながらジェネラスは歩き出す。

 予定外と言うべきか、予定通りと言うべきか。

 ともあれ、ジェネラスとティエスはヒュージラット討伐戦に参加することなったのだった。

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