第31話 食後のお誘い
いつの間にか現在所属している国の王族と関係を築いていた、生死不明だった息子クイントと再会。
新しい家族であるティエスの紹介を兼ね、クイントの自室から砦の食堂に移動して食事をしながら談笑していた。
「美味い食事だった。この国が領土の割には帝国に対抗出来ているのも納得だな」
「それ故に、現在狙われているわけですが」
「そして今回の越境行為か」
「状況から見てですがね。国境の結界を無断で抜けた一団の確認の為に偵察を任されました」
「軍部に警鐘を鳴らすための結界だったか。解除せずに入り込んでくるとはな。常勝無敗の帝国だが、圧政も酷いと聞く。亡命者の可能性もないか? ああいや、馬鹿な質問だった。それを確認しに行くんだったな」
ジェネラスとクイントの話に耳を傾け、黙って話を聞いているプリメラとティエス。
その横で、セグンは椅子の背もたれに身を預け、無防備に口を開いたまま眠り始めてしまった。
「ちょっとセグン、寝てないで話聞いてなさい」
「難しい話聞いてると眠くなるんだよ。別にいいだろ? 怪しい奴見つけて突いてみるって話じゃん」
「確かに。要約すればそういう話です。セグン姉様、この辺りに魔物のご友人はおられますか? 出来ればご助力願いたいのですが」
久しく再会した弟に請われ、セグンは開いていた口を閉じ、顔を起こすと、眠い目を擦りながら机に肘を付きニヤッと笑った。
「この辺りにも連れはいるぜえ。明日声掛けてやるよ」
「ありがとうございます姉様。セグン姉様の力はこういう時、本当にありがたい。父上と来てくれて助かります」
「偶然帰ってきていただけだったが、丁度良かったな。では明日は、砦から出て北に向かいつつ侵入してきた輩を捜索だな」
「陛下からは帝国軍なら容赦なく殺して構わないと」
「良いのか? 侵略の大義名分を与える事になりかねんぞ?」
「北の荒野には魔物も出ます」
「擦りつけようってか。その場合目撃者は殲滅せにゃならん」
そう言うと、ジェネラスは食後のコーヒーが入ったカップに手を伸ばし、魔物由来の砂糖を一杯入れて口に運んだ。
そんな父の姿を見て、クイントは少し申し訳なさそうに眉をひそめる。
「逆に考えれば侵入者を全て殲滅すれば、帝国へは『いや、そんな連中、侵入してきていません。痕跡もありませんし、知りませんが』で通せるわけだが(なんつってなあ)」
と、ジェネラスはカップを置きつつ、冗談を言いながらニヤッと笑った。
それを見ていた子供たちは、父の悪どい笑顔に一様に冷や汗を浮かべ戦慄する。
「お父様。何か算段があるのですか?(敵の規模も分からないのにこの自信。もしかして何か視えたのかしら)」
(怖え。こういう時の親父は何しでかすか分かんねえんだよなあ)
恐る恐るといった様子でジェネラスに聞くプリメラの横で、先程まで眠そうだったセグンは耳も尻尾も姿勢よく立って毛を逆立たせていた。
そんな二人を横目で見ながら、ジェネラスは「さてね」と呟きながらもう一度ニヤリと笑うと、再びコーヒーを口に運んだ。
(侵入者が帝国軍人とも限らんしな。とりあえずは捜索からだ。侵入した人数が少ない場合、分散されてちゃ全員見つけるのも難しいし。まあ、なんとかなるだろ。プリメラやセグンがいるし、クイントも——)
と、ここまで考えて、ジェネラスはクイントの方を見た。
娘たちの実力は理解しているが、久しく再会したクイントの実力は把握出来ていない。
剣の腕は磨かれているだろうということは体つきから何となくは分かるが、この時ジェネラスは同行者としてより、息子がどれほど力を付けたか試したくなった。
「クイント、このあとまだ時間はあるか?」
「ええ。問題ありませんよ」
「食後の腹ごなしだ。運動に付き合わんか?」
そう言って、ジェネラスは拳を握り剣を持つジェスチャーをする。
その意味するところを汲み取り「願ってもありません父上」と、申し出たのは、クイントも久しく再会した父に、今の自分の実力を見て欲しいという欲求があったからだった。
「では決まりだ。どこか剣を振れる場所はないか?」
「砦の屋上なんていかがでしょう。練兵場まで降りるよりは近いですよ?」
「ならそうしよう。ふっふっふ。ちょっとした手合わせとはいえ、ミズホの戦士、サムライとか言ったか、そのサムライの血が流れるお前と月の下で一騎打ち。風情があるな」
「粋とも言うのですよ父上」
「よし。ならば早速、クイントの部屋に剣を取りに戻ろうか」
立ち上がりながらそう言ったジェネラスとクイントは、呆気に取られている娘たちを残して食堂の出口に向かって歩き始めた。
その様子を見ていたセグンは「面白そうじゃん」と、ウキウキしながら二人のあとに続いて席を立つ。
そんな三人の様子を見て「全く血の気が多いんだから」と、正面に座っていたティエスの方に視線をやるが、そこにティエスの姿はなく。
「わ、私も行きますセグン姉様!」
と、セグンの後ろ姿を追いかけていく姿が見えた。
「ちょ、ちょっと皆⁉︎ もう、放っていかないでよ!」
一人食堂に取り残されたプリメラは、慌てて席を立って四人を追いかけていく。
そして、そのまま全員で一旦荷物を置いていたクイントの部屋に寄ってから、砦の屋上へと向かうのだった。
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