第42話 砦への帰還
三頭現れた地竜のうち、荒野の東に現れた個体をセグンの友人のドラゴンが氷魔法で地竜の四肢を凍結させて動きを封じ、その隙を、セグンが半獣化という能力で四肢を先祖である狼のように変化させてスピードと打撃力で、地竜を圧倒。
気絶させた地竜を、最終的にドラゴンが魔法で作り出した氷の杭で貫き仕留め、二人ともに退屈そうにため息を吐いていた。
「半獣化いらなかったなあ」
「ふむ。所詮は退化したトカゲか、他愛もない。まあ腹の足しにはなるが」
「コイツら美味いのか?」
「人の姿で街に降りた時にステーキを食ったが、なかなかだったぞ?」
「ふぅん。今度食いに行ってみっかなあ」
土砂降りの雨を気にする様子もなく、談笑するセグンとドラゴン。
そんな二人の耳に落雷の音が響いてきた。
ジェネラスが地竜を仕留めた時の音だ。
「ほう。お前の父親、確かにやる。最小限の魔力で最大限の戦果だ、ただの人の身でありながら一撃でトカゲを仕留めるか」
後ろ足で立ち上がり、落雷が起こった方向を
「こっから見えるのか?」
「見えるさ。私を誰だと思っている
「知らね。昔の呼び名だろ? 今は俺のダチじゃん」
「ふん。まったく、お前は本当に名乗り甲斐がないな。まあいい、これで終わりだろう? 乗れ、途中まで乗せていってやる」
セグンの友人、ドラゴンのアバリシアは呆れたように鼻で息をつき、そう言って、地に足を付けるとセグンが乗るのを待って翼を広げ、飛び立った。
「なあ、俺しばらくエレフセリアにいるからさあ。今度遊びに来いよ」
「そうさな。報酬の件もあるし、気が向いたら尋ねてみるとするか」
結界魔法を身に纏い、雨風を凌ぎながらジェネラスたちがいる方へと飛んでいくアバリシア。
その姿を物陰から覗いている者がいた。
帝国軍に雇われた傭兵の生き残りだった。
「七龍の一、だと? 冗談じゃない。神話の世界の生き物だろ、あんなものを飼ってるのかジェネラスって奴は。帰って、皇帝陛下に報告せねば」
折れているのであろう、動かない左腕を抑え、額から血を流し、それでもなんとか息を殺して岩陰に隠れて回復魔法で応急処置を施す。
このあと。傭兵の男は影に溶けるように姿を消した。
それからしばらく時間が経った。
地竜を父ジェネラスが仕留めたのを見て、安心したのだろう。
妹の腕の中でいつの間にか気を失っていたプリメラは砦の医務室で目を覚ました。
「私、気を」
「起きたか」
ハッと目を覚まし、木枠で組まれた
そこには既に着替えを終えたジェネラスが椅子に腰掛けている姿があった。
「お父様。この度は、申し訳ありませんでした。座標を地竜の腹部にしていれば、一撃目で仕留められたのに、余計なお手間を」
顔を伏せ、頭を下げるプリメラ。
その頭頂部にジェネラスはデコピンをお見舞する。
「阿呆。命が掛かった戦場に確かな答えなんぞないと昔から教えているだろう。気に病むくらいなら次に生かせ。だいたい、全て討伐した上に全員無事なんだぞ? 戦果としては十二分だろうが。お前はよくやったよ、自分と妹を、ちゃんと守れたんだからな」
そう言うと、ジェネラスは子供の頃のプリメラにそうしたように頭を優しく撫でた。
その大きくて分厚い手に久しぶりに撫でられて、プリメラはご満悦だ。口元が緩みそうになるのを必死に堪えている。
そんな時のこと、医務室の扉がノックされ「失礼します」と、ティエスの声が聞こえてきた。
「プリメラ姉様! 良かった、目を覚まされたのですね」
医務室の扉を開け、ベッドに座るプリメラの姿を確認するなり早足で歩き、二人に近寄る。
「ごめんなさい姉様。私がもっと強ければ」
「はあ。全くお前たちは」
目覚めた姉と同じように顔を伏せたティエスの姿を見て「はあやれやれ」と言わんばかりに肩をすくめ、首を横に振ると、ジェネラスは椅子から立ち上がった。
「そもそも今回の戦いは生き残れただけで大戦果。だというのにちゃっかり現れた地竜は全て仕留めた。完璧な仕事だ。それ以上だと言ってもいい。何を反省することがあるんだお前たちは」
「父上の言う通りですよ」
ジェネラスの言葉に姉妹の代わりに答えたのは医務室にプリメラの様子を見に来たクイントだった。
彼自信も魔眼の使用で魔力が底を尽きかけ、疲労困憊だったが、日頃の鍛練の成果か、プリメラよりは随分と元気そうに見える。
「おおクイント。どうだった」
「かの龍、アバリシア殿は寝床に帰還致しました。近々エレフセリアに報酬を頂きにいくと伝えてくれと」
「セグンは?(頂きに行くってなんだよ⁉︎ やめろよ、大騒ぎになるだろ!)」
「セグン姉様は腹が減ったとの事で食堂にてお食事中です」
「そうか(あいつ元気だなあ)」
「この度の騒動、残党狩りと後片付けは国軍にお任せください。砦からも地竜の確認はされておりましたので、報酬についても倍額以上は確実だと思います」
「ありがたいことだな、国王陛下にはよろしく伝えておいてくれ。いやあ、しかしお前たちが無事で心底安心したぞ、改めて言うが、よくやった。誇れ、胸を張れお前たちはみんな俺の自慢だ」
そう言ってジェネラスはベッドに座るプリメラをもう一度撫で、手を離すとティエスの頭も撫でた。
国境を侵した侵入者探しから突然始まった地竜三頭の討伐戦は、こうして幕を下ろしたのった。
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