第43話 日常に戻る

 帝国軍が召喚した巨大地竜三頭の討伐。

 この結果は運良く逃げおおせた帝国側の傭兵から、帝国のトップである皇帝にももちろん伝わることになった。


「太古の龍すら飼い慣らすか。ジェネラス・サンティマン、ますます欲しくなるじゃないか」


 髭を蓄えた口元に手を当てて、玉座に座って不敵に笑う皇帝は殲滅された部隊の事などには興味すら示さなかった。

 亡くなった兵たちに哀悼の意を表することもせず、ただただ欲しい玩具の話を聞いた子供のような物欲だけが皇帝の身体と脳を駆け巡る。


 しかしそんな皇帝に「もう少し亡くなった兵たちのことを憐んでほしい」などと異を唱える者はいなかった。

 

 そんな事を口走れば自らの首が物理的に飛ぶことをよく分かっているからだ。


「戦力を補充せねばならんな。今しばらく各国への侵攻は控えよ。その代わり魔物の補充と育成、人工魔法生物の研究に注力するようにな」


「は。そのように」


 皇帝の言葉に敬礼し、側近の一人がすぐさま行動に移るために玉座の間を後にした。


 この日からしばらく、帝国は各国への進軍を停止。

 関節的にジェネラスたちの戦いが、全世界にしばらくの平穏な日常を与えることになったのだ。


 そのことがジェネラスの暮らす国、カルディナ王国で騒がれることになるまでには数日と掛からなかった。


 息子であるクイントと砦で別れ、住み慣れたエレフセリアの街に帰還してからしばらくも経たない頃。

 

 報酬が支払われるまでの生活費やらを稼ぐためにユニオンに訪れた時のこと、ジェネラスはある噂を聞くことになる。


「おい聞いたかよ。帝国相手に喧嘩を売って世直ししようって傭兵がこの街にいるらしいぜ?」


 新人か、流れ者か、知らない顔の若い傭兵が何やら話しているのが、依頼書が貼り付けられている提示版の前に立つジェネラスの耳に入ってきた。


「ああ、あの話だろ? 凄えよなあ帝国に喧嘩を売るなんて」


「しかも、ちゃんと大見得きって喧嘩を売れるほど強えらしいぜ? ドラゴンを飼い慣らし、自在に雷を操る魔法使いでありながら、とんでもなく強い剣士でもあるってさ」


「それが本当なら確かにとんでもねえなあ」


 この話を聞いてジェネラスは「世直しか、そんな事を考えている奴がいるんだなあ」とぼんやり提示版に貼られている依頼書を眺めながら話を聞く。


「なんて名前だったかなあ。確かジェネラスとか言ったっけ?」


 突然聞こえてきた自分の名前を聞き「え? 俺なの⁉︎」と声を上げそうになるが、丁度その時娘たち三人がジェネラス元にやって来た。


「お父様。あちらの依頼を受けませんか? 少し遠出になりますが内容は悪くありませんよ?」


「なあ親父い。この依頼受けようぜ。強い奴と戦いてえよ俺」


「こら二人とも、お父様が困ってるでしょ? 同時に喋らないの、お父様、私も依頼を見繕ってきましたので酒場で少し話し合いませんか?」


 ジェネラスを囲み、口々に話す娘たちに困っていると、いつの間にやらジェネラスの噂をしていた若者たちは依頼書を引っぺがして何処かへ行ってしまっていた。


「分かった、分かったからちょっと待ちなさい。全くお前たちは本当に元気だな。とりあえず依頼書を持って酒場に行くぞ、話はそれからだ」


 そう言って、ジェネラスは提示版に背を向けて歩き出した。

 そのあと酒場で軽食をつまみながら、次に受ける依頼を選別していく。


 そんな親子が依頼を決めるため、エレフセリアのユニオンの酒場でああでもないこうでもないと話をしている頃。

 

 遥か南の地、ハイラントではジェネラスが最初に育てた息子のセロがジェネラスの噂を部下の一人から聞いていた。


「へえ。父さんドラゴンまで味方に引き込んだんだ。凄いね」


 趣味の土いじりで花を植え、おおよそ騎士には見えない作業着姿で泥に塗れながら、セロは部下からの報告を聞いて楽しそうに笑って立ち上がった。


 拠点にしているハイライト王国の天気はよく晴れ渡り、セロがそれまで城の庭に植えてきた花の良い香りが風に乗って運ばれてくる。


 その香りを吸い込んで、セロは北の空を見上げて父の顔を思い浮かべていた。


「準備は着々と進んでいるってことかな。こっちはほとんど準備終わってるし、そろそろ次の段階か。ごめん、僕の着替え用意してくれる? ちょっと陛下に会ってくるよ」


 そう言って、セロは頬に付着した土を拭うと報告書を持ってきた部下に向かって微笑んだ。


 この数日後、ハイラント王国の騎士団長であるセロが、ハイライト国王からカルディナ国王に同盟を求める密書を手に来訪。


 これが長らく続いた帝国一強の歴史を脅かすための一石が投じられた瞬間だった。

 


第一部 完


————————————————————————

 ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます!

 これにて第一部は完結です。

 本章はジェネラスが一時的に平和をもたらすまでの物語でした。


 そして次話から始まる第二部で遂にジェネラスと長男のセロが再会します!

 是非ともよろしくお願いします!


 モチベで執筆スピードが変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆と応援コメント、フォローなど宜しくお願いします! 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る