二国同盟
第44話 招待状
ジェネラスたちが地竜三頭を討伐してからしばらく過ぎた頃。
その日は特に良さげな仕事も無かったので家族全員自由に過ごしていた。
ティエスとセグンは鍛練がてらに街の外に、ジェネラスは自宅でゆっくりくつろぎながら生活資金の帳簿を確認。
地竜討伐により王国から報酬として得た金貨九百枚の文字を眺めて嬉しくなり、ついついニヤッと笑みを浮かべてしまう。
「どうしたんですかお父様」
「ああいや、想定以上の報酬についな(ありがたい事だ、これだけあれば数年は遊んで暮らせるぞ。まあ老後のことを考えると足らんが、しばらくは危険な任務は避けて、地道に稼げるってもんだ)」
プリメラの言葉に答えながら帳簿を座っているソファの前のローテーブルに置き、その横のコーヒーカップに手を伸ばすジェネラス。
そんなジェネラスの横に座り、何やらプリメラはモジモジとし始めた。
妹二人がいない状況である。
これは敬愛する父親に甘える良い機会なのでは? と、ジェネラスの肩に頭を寄りかからせようとして体を傾かせた瞬間。
カンカンッと玄関の扉に付いているドアノッカーが叩かれる音が聞こえ、ジェネラスが立ち上がり、プリメラの狙いは外れてソファに倒れ込んでしまった。
「客か? また指名依頼じゃなかろうな」
「わ、私が出ます」
「構わん。俺が出る」
そう言って、ジェネラスはプリメラが倒れていることに気付くことなくリビングを出ると再びドアノッカーが叩かれた玄関へと向かっていった。
その後ろを、立ち上がってプリメラも遅れてついていく。
「何か用かね?」
護身用のショートソードを体の影に隠しながら、ジェネラスは玄関の扉を開く。
「ジェネラス様。ユニオンから手紙を預かって参りました」
少し開いた扉の先、そこにいたのはユニオンの制服に身を包んだ若い青年だった。
「俺宛に手紙、また指名依頼か?」
「いえ、指名依頼ではありませんが、指名ではあります」
「ん〜? どういう事だ?」
「内容は手紙をご覧ください。では、私はこれで」
開かれた扉から差し出された手紙。
それをジェネラスが受け取ったのを確認すると、ユニオンの職員の青年は深々とお辞儀をすると踵を返してユニオンへの帰路に着いた。
その背中を見送るわけでなく。
ジェネラスは玄関の扉を閉めると受け取った手紙が入った封筒を裏返す。
すると、そこにはこの国カルディナの王家を指す、双頭の獅子と盾が刻まれた紋章の封蝋が施されていた。
「王家からの手紙? なんだ、報酬払い過ぎたから返せとかか? おいおい勘弁してくれよ」
「流石にそれは無いと思いますよ? 一度与えた物を返せなどと」
「そりゃそうだがなあ」
と返しつつ、ジェネラスはその場で封を開かず、リビングに戻り、疲れた様子でソファにドカッと座るとローテーブルの上に手紙を置いた。
「開きますか?」
当たり前と言わんばかりにジェネラスの隣に座り、プリメラが手紙に手を伸ばした。
「頼む(なんだ? クイントと王女殿下の間に何かあったか? 面倒事は勘弁してくれ〜)」
父からの了解を得て封筒を手に取ると、プリメラは人差し指を伸ばして魔力を集め、薄い氷の刃を形成すると封を切る。
そして中の手紙を取り出すと、読まずにジェネラスに差し出した。
「どうぞお父様」
「ふう。さて、なになに?」
意を決してプリメラから手紙を受け取り、中身をあらためる。
手紙の差出人はいつの間にやら王家に婿入りしていた息子のクイントからだった。
拝啓から始まる、長ったらしいミズホの国流らしい挨拶から本題に入るが、どうやらこの手紙は王都、王城への招待状のようだ。
「クイント。昔は字も汚くて読み書きも苦手だったのに。ちゃんと手紙書けるようになったんだなあ」
「そうですねえ。私も教えるのに苦労したものです。セグンは未だにちょっと、アレですが」
すっかり字書きが上達した弟と、幼少の頃から全く上達してない妹の顔を交互に思い出しながら、プリメラは苦笑する。
ジェネラスも同様に苦笑していた。
「しかし、なんで俺を招待するのか」
再び手紙に視線を落とすジェネラス。
その手紙を覗き込むという大義名分を得て、プリメラは父に寄り添う。
「この度、ハイラント王国から同盟の要請があった。特使として同国の騎士団長である兄、セロが来訪するため私たち両名の父に一ヵ月後の調印式に同席してほしい、か。なるほど? んん?」
「あら。お兄さま、動いたんですね」
「いや、待て待て、ハイライト騎士団というのはセロが率いている傭兵団の名称だろ? たかだか一傭兵団が一国と同盟ってどういうことだ?」
「いやですわお父様。セロ兄様が率いているのは傭兵団などではありません。正真正銘、ハイライト王国、王家直属の騎士団です。言ったじゃありませんか」
「え? あ、え? 本当にセロはよその国で騎士になったのか⁉︎」
「はい。騎士爵ですが、歴とした貴族ですよ?」
言葉は出なかったが、プリメラの言葉を聞いて、ジェネラスは目を丸くして驚く。
そしてゆっくりと手紙をローテーブルに置くとソファに深く腰を掛け直して「ふぅ〜」と一息ついた。
「引き取った子供たちがいつの間にやら大成していたんだが」
「手紙は送っていたんですがねえ」
「セロは、放ったらかしにしていたことを怒ってないだろうか」
「怒ってはいませんわ。心配はしていましたけど」
「会いに行く必要が出来たな。元気な姿を見せてやるとしよう」
「二人が帰ってきたら話をしませんとね」
こうしてジェネラスは、招待状に書かれていた同盟結成のための調印式に参加するために王都に発つことを決定。
夕暮れ時に泥だらけで帰宅した娘二人にもそのことを伝えると、一ヵ月後に王都へ向かうための準備を始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます