第41話 父の一撃

 現れた地竜に対し、散開してそれぞれ迎撃に当ることにしたジェネラスたち。


 西に現れた一体を受け持ったジェネラスとプリメラ、ティエスの三人はジェネラスが地竜の気を逸らしているうちに姉妹二人の魔法で攻撃するという作戦を実行。


 ジェネラスの陽動自体は地竜にダメージを与えられなかったが、土砂降りの雨の中で視界不良に陥る可能性を潰し、姉妹は火炎系魔法で最大瞬間火力を誇る【エクスプロージョン】の発動に成功した。


 しかし。


「外した⁉︎」


「立って直撃だけは避けたか、運の良い奴だ」


 娘たちが魔法を発動する直前、騎竜ごと岩陰に隠れ、プリメラに比べれば強度で劣る結界魔法を発動したジェネラスが岩陰から顔だけ覗かせ、立ち上がって腹部側が焼け爛れている地竜を見て呟く。


 空間に設置するタイプの魔法は発動に時間が掛かる物がほとんどだ。

 地竜は自分の眼前に集中する、自然界では絶対に遭遇しない魔力の流れを警戒し、足を止めた。

 しかし巨大な身体で避けるには間に合わない。

 最悪頭が吹き飛ぶ。


 そこまでの考えには至らなかっただろうが、野生の勘というやつが地竜を立たせる事を選んだ。

 

「頭を狙って、裏目に出ました」


「問題無いわ。アレを見て野生の生物がとる行動は二つよ。恐怖に駆られて逃げるか、恐怖から逃れるために戦うか。前者なら放置、後者なら」


 立ち上がった地竜がプリメラとティエスの魔力を感じて咆哮を放つ。

 圧倒的な破壊力を持つ炎の力で己の腹を焼き内臓を傷付けた憎い敵と、地竜は戦うことを選び、立ち上がった状態から前脚を地面に叩き付け、地面を揺らした。


「戦うだけね。ティエス、二発目の準備を」


「了解です」


 再び手を繋ぎ、魔法の発動のために魔力を集めていく二人。

 しかしそんな二人に向かって地竜は口を開き、咆哮ではなく、展開した魔法陣から魔力による一軒家なら丸ごと呑み込みかねない熱線を放出する。


「下がって!」


 プリメラがティエスの腕を引き、使える魔力全てを使用して結界魔法を多重に発動した。

 これが並の魔法使いなら結界魔法ごと消し飛んでいた威力だというのは、プリメラの結界で弾けた熱線の一部が大地を削り取ったことから垣間見えた。


「プリメラ! ティエス!」


 地竜が放った熱線の方角が娘二人が陣取っていた高台の方角だったことから焦り、通信魔法を繋いで声を上げるジェネラス。

 そんな彼の耳に「お父様、すみません」と、弱々しくプリメラの声が聞こえてきた。


「せっかくのお父様の作戦。失敗してしまいました」


「そんな事はどうでもいい! 無事か⁉︎」


「なんとか、五体満足無事ですが、魔力が尽きました。ティエスは義手のおかげで問題ありませんが、私は、しばらく動けません」


 淡々と話しているが、プリメラは今にも気を失いそうだった。

 そんな姉を抱きかかえ、ティエスは心配そうにプリメラの顔を覗き混んでいる。


「アレをよく防いだ物だ。疲れただろう、しばらく休んでいなさい。あとは、俺に任せろ」


「はい、お父様」


 通信魔法を解除して、ジェネラスは騎竜を岩陰から走らせた。

 目指すはもちろん地竜だが、困ったのはジェネラス自身が大型の地竜を仕留められるような決定力を持っていないことだ。


(ああは言ったが、どうすっかなあ!)


 幸い熱線は連射できない様子だし、なんなら大量の魔力を使用するのであろう。

 巨大な体を支える強化魔法の出力も落ちているのか、地竜はまともに歩くことすらせずに魔力の回復のために大きく息を吸っていた。


 だが、その視線はプリメラとティエスがいる高台を見据えている。

 次弾で確実に仕留めるつもりなのだ。


「まずは注意を逸らすか、すまんな少し無茶に付き合ってくれ!」


 そう言って、ジェネラスは手綱を握って騎竜の腹を蹴り、全力で走らせた。

 足場の悪い岩場を駆け回って騎竜も疲れてきているが、頭の良い騎竜は今背を預けている主人に答えるべく駆ける。


 その背中で、ジェネラスは地竜の顔を狙って魔法で攻撃を仕掛けた。


 プリメラの回復のための時間稼ぎをするつもりで放つ魔法だ。

 しかし、やはり威力不足か、地竜は意に介していないようで真っ直ぐプリメラたちを見据えている。


 土砂降りの雨を降らせる空で雷鳴が響こうとも知らんぷりだ。


 そんな地竜が口の前に、先程の物よりは遥かに小さいが、再び魔法陣を展開した。


「まずいな、ヤツめ先手を取るつもりか」


 ジェネラスが焦り、騎竜を止めて飛び降り背中のグレイブを握る。

 そしてそのグレイブに雷撃魔法を纏わせた。


 狙いは魔法陣そのもの。

 発射の直前を狙って魔法を暴発させる魂胆だ。


 そして、地竜の魔法陣に光が灯った瞬間を狙ってジェネラスは強化魔法を自身に掛けて、槍投げよろしくグレイブを投擲しようとする。


 しかしここでジェネラスが痛恨のミス。


 投擲の瞬間に足元の段差に躓いた上に、雨に濡れた手元が滑り、グレイブをあらぬ方向へ投げてしまった。


「っだぁああ! やっちまったあ! 何やってんだ俺はあ!」


 岩くらいなら簡単に貫通するはずのジェネラスのグレイブはゆる〜く放物線を描いて地竜に向かって飛んでいく。


 雷撃魔法により電荷だけが溜まったグレイブはゆるゆる飛んで、熱線を今にも放とうとする地竜に向かっていく。


 もうダメか。


 ティエスが姉の頭を抱きかかえながらぎゅっと目を瞑るが、プリメラはティエスの腕の隙間から父が放ったグレイブが地竜の目に刺さったのを見た。


 突然の激痛に魔法を中断し、悲鳴を上げる巨大な地竜。

 

 そんな地竜に目掛け、正確には電荷の溜まったグレイブ目掛け、神は天より裁定を下す。


 鳴り響く雷鳴、煌めく雷光。

 

 神の雷は地竜に落ち、巨大な体を内から焼き、最も目に近い脳を焼き切って、体内の魔石すら砕いて地竜を一撃で葬るに至った。


「お見事です、お父様」


 地に伏し、内から焼け焦げた臭いを放つ地竜を段差の上から見下ろすジェネラスの耳元でプリメラの声が響く。

 

 その声にジェネラスは耳に手を当てると「偶然だ。狙ってやったわけではない」と答えて深く息を吐いたのだった。

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