第48話 王都到着

 住み慣れた街を発ってから約四日、途中で雨に振られて半日ほど遅れたものの、ジェネラスたちは無事にカルディナ王国の王都ミーティスに到着。


 夕焼けを背に王都に入ることになった。

 中央に位置する王城から東西南北に伸びる石畳の道。

 その道から蜘蛛の巣のように広がる細い道にまで光る魔石の街灯が設置され、薄暗い道を明るく照らしている。

 

 王都の広さはジェネラスたちの暮らすエレフセリアの比ではなく、魔物や敵軍の侵入を阻むエレフセリアの壁は一枚だが、王都は城下町の外縁から城まで三枚の円形の壁で守られていた。


「うわぁ、流石は王都、壁が高いですねえ」


 窓から見えた壁の高さに感心して、ティエスは呟く。

 そんな娘を見て、ジェネラスとプリメラは微笑んだ。


「王都防衛のための壁だからな。壁の上には対竜騎兵用の魔導砲や大砲もあるんだぞ?」


「魔導砲。魔力を込めて魔力弾や各属性弾を放つ兵器ですね」


 王都の門で合流した案内役の先導で、今日泊まる宿へと向かう馬車の中で雑談をする父娘。

 そんな一行を乗せた馬車は、ある高級宿の前で止まる。


「到着しましたサンティマン様。こちらが本日の宿になります」


 馬車の御者が扉を開き、ジェネラスたちにそう言って、頭を下げる。

 それを見て、ジェネラスたちは馬車から降りると、すっかり暗くなってしまった空の下で、王都の地に足を付けた。


「おお! でっけえ屋敷! ここが今日の宿なのか?」


 と、馬車から降りてきたセグンが声をあげた。

 それもそのはずで、街中にある高級宿にしてはあまりにも広い敷地で、暗くて見え辛いが、噴水や花が咲く生垣が見える。

 そして、セグンが言ったとおり宿というにはあまりにも建物が大きい。


 誇張抜きで領主の屋敷ほどもあるのだ

 外観も白い石造りで、おおよそ宿には見えなかった。


「いくらなんでも高級過ぎないか?」


 降ろされた屋敷のような宿の前、重そうな木の扉を見ながらジェネラスが困惑していると、その扉が内側から開かれる。


 そして、屋敷から見覚えのある顔が現れた。


「父上。ようこそ王都へ」


「クイント? どうしてここにお前が」


「せっかく父上がいらしてくれたのです。どうせなら、我が家に泊まっていただきたく思い、こちらに案内するように案内役に申し付けていたのです」


 つまりはそういう事だった。

 門から案内されたのは王都内でも貴族の暮らす区画で、その中でもさらに王家に近しい一族が暮らす一画。

 ここはクイントと婚約者である第四王女が暮らしている屋敷だったのだ。


「王都滞在中は私たちの屋敷を宿としてご利用ください。何かあれば使用人に申しつけていただければ対応致します」


「お、おお。すっかり貴族が板についてるなクイント」


「恋人に、随分と鍛えられましたからね」


 そう言って照れくさそうに笑うと、クイントは屋敷内で待機していた使用人たちに振り返り、目配せする。

 

「まずは夕食にしましょう。荷物は部屋に届けさせておきますので」


「そうだな。せっかくだ、世話になるとしよう」


 クイントの言葉に応えるジェネラス。

 その後ろで、娘たちはというと少々居心地悪そうに苦笑いを浮かべる。


「ねえクイント。ここって貴方の屋敷なのよね?」


「じゃあもしかして、王女様もいるのか?」


「もちろんいますわお姉様がた」


 プリメラとセグンの疑問に答えたのはクイントではなく、クイントの後ろからひょこっと姿を現した一人の女性だった。


「お初にお目にかかります。クイントと将来を誓いあいました、クリスティナ・リ・カルディナと申します」


 ドレスの裾を持ち上げ、一礼するこの国の第四王女の姿に、ジェネラスたちは慌てることなく膝をついて返礼しようとするが、それを王女は「あ、お待ちください」と、静止する。


「あなたがたはクイントのご家族で、将来の私のお義父さまであり、お姉様、そして妹です。ここは公の場でも城でもありませんので、最敬礼はおやめいただけると嬉しく思います」


「一国の王女にそれはいかがなものかと思いますが、その王女殿下から直に言われては従わないわけにはいきませんな。クイントの父、ジェネラスです。お初にお目に掛かります殿下」


 王女に言われるまま立ったまま頭だけ下げて(不敬罪にならねえか⁉︎ 大丈夫かなあ⁉︎)と、思いながら会釈をするジェネラス。

 それを皮切りにプリメラ、セグン、ティエスが順番に王女に頭を下げた。


「セグン。お前ちゃんと挨拶できるんだな」


「親父に恥はかかせらんねえからな」


「ここ最近で一番感動したぞ、成長したなあお前」


「そうだろ? ちゃんと頑張ってるんだぜ?」


 そう言って胸を張るセグンを見て、王女は微笑むと「では中へ、食事にいたしましょう」と、クイントと腕を組んで歩き、ジェネラスたちを屋敷内に案内する。


 初めて踏むフカフカの赤い絨毯、初めてみる艶やかな石の壁や柱。


 高価なのであろう壁に掛かる絵画や、置かれている壺を見て、ジェネラスとセグンはやや緊張の面持ち。

 

 しかし、プリメラとティエスは動じていないのか、平気な顔でクイントと王女のあとに続いた。

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