第4話 別れと再会と、新たな出会い②
過去に育て、送り出した娘であるプリメラと再会したジェネラスはしばらく談笑したあと、思い出したように「すまん少し待っていてくれ」とプリメラに言ったかと思うと自室に向かった。
そこでワイシャツにスーツパンツという、どこかの新聞記者のような格好に着替えると、ジェネラスは革の手提げ鞄を手にプリメラの待つリビングに向かう。
「どこかにお出掛け予定でしたか?」
「ああ。二人を送り出したら十人目、最後の一人を探しに行こうかと思っていたんだ。どうだプリメラ、社会見学についてくるか?」
「光栄ですお父様。お父様がどうやって私たちを見初められたのか、拝見させていただきます(最後の一人、つまりはお父様が考える帝国攻略に必要な最後の駒。いったいどんな子を選ぶんだろうか)」
(十人目か。この二十年で随分育てたもんだ。次の子も今まで育てた子供たちみたいに才に恵まれていると良いなあ。まあ才能がなかったら無かったで二人でのんびり暮らすのもありだなあ)
まだ見ぬ新たな仲間との新生活を思い浮かべ、ジェネラスは優しく微笑むが、強面のせいか、その微笑みがプリメラにはどこか後ろ暗く思え、背筋に悪寒を感じて冷や汗を浮かべた。
そしてジェネラスはプリメラを連れて家を出ると、エレフセリアという名の街を歩いていく。
ジェネラスがまず向かったのは教会が営む孤児院。
しかし、現在エレフセリアに複数存在する孤児院にいる子供たちは男女ともに幼い本当の意味で子供しかいないため、ジェネラスは「流石に若すぎるな」と子供を孤児院から迎えるのを断念。
街を巡る馬車に乗り今度は奴隷商の元へ向かって行った。
「奴隷を買うのですか?」
「言い方は悪いが、まずは品定めだな、セロがそうだったように掘り出し物がいればいいのだが」
話をしながら馬車を降り、ジェネラスは隣にプリメラを伴って歩いていく。
そんな二人を、すれ違う通行人たちはチラッと見る。
やたらとガタイの良い強面の中年が、カーディガンを羽織ったブラウスにロングスカートという出立ちの高身長のモデルのような美女と歩いているのだ、それも仕方ないことだった。
そんな二人が辿り着いたのは一軒の商店。
綺麗な店構えで清潔感を感じる一見すると高級な服飾店か、レストランにすら見えた。
店の入り口にはジェネラスに負けず劣らずのガタイを持つスーツを着た用心棒が警備を担っている。
「いらっしゃいませ。何をお求めかな?」
用心棒の言葉に、ジェネラスは首元から身分証代わりのタグを取り出し「奴隷を見繕いにきた」と手短に答える。
すると、用心棒の男は辺りをキョロキョロ見渡して、扉を開ける。
「どうぞ。ようこそいらっしゃいました(こ、この人がジェネラス。こえぇ、なんて気迫だよ)」
「すまんね。ありがとう(見た目によらず親切な店員だなあ)」
道をあけた用心棒の横を通り過ぎ、ジェネラスとプリメラは店の中へ。
外から見ても綺麗な様子だったが、店内は店内で赤い絨毯が敷かれ、高そうな照明が天井から吊り下がり、絵画や艶やかな壺などが飾られている。
「初めて来たが、綺麗な店だな(高級宿みたいだ)」
「そうですね(さすがお父様。高級な店は奴隷の扱いも良くて健康状態も良い。戦力にするなら金に糸目はつけないという事なのね)」
(やっべ、予想以上に高級な店だな。場所だけは知ってたから来てはみたが、あまりにも高い買い物は出来んぞ)
と、ジェネラスが店の内装を見て恐々としていると、二人の元に店の奥から胸元の開いたドレスを着た女性が、護衛だろうか、剣を腰に携えた男女二人と共に現れた。
「我がローズ奴隷商店へようこそ。どんな奴隷をお求めかしら? 私の店の子たちは一級品。どんな要望にも答えられますわよ?」
「一人、若い奴隷を見せてくれないか? 俺は傭兵でね。手伝ってくれる人材を探している(高級店なら傭兵と取引なんてせんだろ。手塩に掛けた奴隷を傷物にはしたくないはずだし)」
「分かりました。こちらにどうぞ(隣の女性は奥様かしら、所帯を持てる傭兵となればそれなり以上に稼げる凄腕。この顔、確かジェネラスとかいう傭兵だったわね。お近付きになっていて損はないわ)」
(あっるぇ〜? おかしいなあ)
ジェネラスの予想に反して快諾したローズと名乗った奴隷商の女主人は、二人に背を向け歩き出した。
奴隷を見せてくれと言った手前、ついていかない訳にもいかず、ジェネラスはじっとり油汗を滲ませてローズの後をついて行く。
(やばいなあ。金足りるかなあ。プリメラの手前あんまり無様を晒したくないなあ。手頃な奴隷がいますように)
案内された奥の広い部屋。
そこにあった、やたらと座り心地の良いソファに座らされ、待つよう言われたジェネラスとプリメラ。
部屋は高級な宿のようで、更に奥にはローズたちが出ていった両開きの扉が見える。
部屋には一人燕尾服をきた青年がおり、待ってる二人に紅茶やお菓子を用意した。
「美味い紅茶だな(よく分からんが)」
「確かに。良い茶葉を使ってますね」
などと話していると、奥の両扉が開き、ローズが奴隷を引き連れて戻ってきた。
きちんと管理されているのであろう。
皆が皆、顔色が良く、客であるジェネラスたちに頭を下げる教養もあるようだ。
しかし、最後に部屋に入ってきた奴隷だけは他の少年少女たちとは様子が違っていた。
五体満足、快活そうな他の奴隷たちとは違い、その奴隷には肩の先から左手が無かったのだ。
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