第26話 ピクニック終了
ピクニックにやって来て、キャッチボールでもするならほのぼのした親子のやり取りなのだろうが、傭兵親子のピクニックは模擬戦で盛り上がっていた。
とはいえ盛り上がっているのは、現在模擬戦中のジェネラスとセグンだけで、それを観戦している魔法戦を得意とするプリメラや、まだまだ未熟なティエスは二人の拳が交差するたびに恐々としている。
「くっそ! なんで当たんねえ⁉︎(足を止めて打ち合ってるとはいえスピードは俺の方が速いはずなのに!)」
「(きっつー! なんてデタラメな拳速してんだうちの子は! しかし父として弱音は吐いてられん!)甘いなセグン。速度を意識し過ぎて攻撃が単調になっている。それでは今みたいに簡単に読まれてしまうぞ?(まあ木っ葉相手ならそれでも瞬殺するんだろうがなあ)」
言いながら、もはや冷や汗か脂汗かも分からない多量の汗を流し、ジェネラスは一歩踏み込んでセグンの頭を狙って左足で上段蹴りを放った。
「見えてるぜ親父ぃ!」
「見せたんだよ」
比較的遅い利き足ではないほうの上段蹴りを受け、カウンターで拳を寸止めして勝利宣言をするという流れが見えてニヤッとギザ歯を見せて笑うセグン。
しかし、ジェネラスは上げていた左足を勢いよく下げると、その反動を使いながら利き足による上段蹴りを放った。
ジェネラスの左足を受けるつもりで腕を上げていたはずのセグンの顔の近くで、寸止めされたジェネラスの右足。
その蹴りの風圧が、セグンの髪を撫でるように揺らし、セグンの汗を吹き飛ばした。
「俺も教えたし、セロからも習ったはずだ。対等以上の実力を持つ敵への攻撃の中には虚構も織り交ぜろと(あっぶな。足止まって良かったあ〜)」
「(やべえ。死んだかと思った)お、俺にはフェイントとか、難しいんだよ」
「難しいだけで出来ないわけではなかろう? 励むことだな」
「わかった」
「よし、手合わせはここまでだ。そろそろ帰り支度をしようか(セグンの相手は骨が折れるなあ。元気な子だ。これ以上やったら吐くわ)」
(凄えなあ親父は。まだまだ余裕そうだ、追いつくには遠いなあ)
ジェネラスの言葉に素直に従い、乱れた服装を整え、息を整え、それでも父や兄に昔教わった事を思い出しながら仮想の敵を殴り蹴る。
その様子に、ジェネラスは苦笑するとセグンに近付いて後ろからポンと頭に手を置いた。
「まったく元気な娘だ。しかし終わりだ。休日に体を酷使してどうする(人のこと言えんが)」
「へーい。あーあ、親父の最初の一発が効いたなあ。なんで普通の
「いや、だからあれは躓いて転んだだけで」
「いいよ気を遣ってくれなくたって。今度は当ててやるかんな」
「(当たったら死んじゃうなあ。それは困る)違うんだって、あの辺りだったか?」
そんな事を呟きながら、ジェネラスはセグンの頭から手をどけると、転んだあたりの地面を物色し始めた。
そして「これに躓いたみたいだな」と、地面から生えるように少しだけ飛び出していた自然に生成された石にしてはやたらと綺麗なそれを手にした。
「おや。随分と綺麗な石だな、宝石みたいだ。手に持つまで分からないくらいに微細な魔力も宿っている。(ふむ。昔、魔道具屋で見た召喚石に似てるな。こうやって産出されるのか? 精製方法はもっと特別だと聞いたが)」
と、手にした水晶にも似た石を手に眺めていると、プリメラがタオルとコートを手にジェネラスに近付いてきた。
セグンはティエスのいる岩まで行って、ティエスに水魔法で出してもらった水球に顔を突っ込んだりしている。
「お父様、どうされました?」
「ああいや。コレを見つけてな」
「綺麗な石……じゃないですよこれ! 召喚石じゃないですか!(まさかお父様、セグンと手合わせしながらコレを探してたっていうの?)」
「やはり召喚石か(俺の記憶は間違ってなかったな。とはいえ妙な話だ)」
「お父様の考えは正解だったわけですね」
「ん?(さっきの口に出てたか? いやはや、歳かねえ)ああ、まあな」
「預かってもよろしいですか?」
「(セグンと違ってプリメラは女性らしく育ったなあ。綺麗な物に興味を持つようになってくれて良かった)構わん。これはプリメラに渡しておく」
言いながら、ジェネラスはタオルを受け取った代わりに手に持っていた石をプリメラに渡す。
「(しかしそうか。プリメラも歳頃)また今度アクセサリーでも見に行くか?(思えばそういうプレゼントをした事なかったしなあ。誕生月にでもプレゼントしてやるか)」
「あ、アクセサリー? 指輪とか、ですか?」
「指輪が良いのか?(ああなるほど、指輪なら魔法の補助に使えるし、付け替えも容易だしなあ)ふむ、ではまた今度一緒に買いに行くとしよう」
そのジェネラスの言葉に、プリメラは笑顔を我慢し、心の中で両手の拳を握りしめてガッツポーズをする。
こうして、森へ調査という名目でやって来たピクニックは終了。
傭兵の親子は自宅への帰路についたのだった。
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